副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
30分もせずカレーは出来上がった。野菜も盛り付けて、スープも用意して、お昼ご飯は出来上がりだ。果たして、飛鳥さんの口に合うだろうか。

 
「飛鳥さん、出来ました。ご飯食べれますか?」

「あぁ、ありがとう。早速食べよう」

 
リビングのソファで仕事の書類に目を通していた飛鳥さんが、こちらを見上げる。2人向かい合って、早速ご飯を食べ始めた。


「いただきます」

「はい、どうぞ召し上がれ」


飛鳥さんが食べる瞬間をじっと見つめる。


「うん、旨い!」


その言葉に、ホッと胸を撫で下ろす。私も一緒に食べ始めた。飛鳥さんはパクパク食べて「おかわり」と言って、早々に二杯目に突入していた。
 
食べ盛りの中学生のようで、弟の蓮が学生だった頃と重ねてしまい、つい笑みが溢れる。


「あ、澪。口の端にカレーついてる」

「あれ、本当ですか」


手でカレーを拭こうとした時だった。
飛鳥さんの指が私の唇に触れ、取ったカレーをそのままぺろっと食べてしまった。

 
「ちょっ…!飛鳥さん! 食べた?!」

「あはは、美味しそうだったから、つい」

「ついって…た、食べないでくださいよ…」

「澪、顔真っ赤。可愛いな」

「もうっ 揶揄わないでくださいっ」


2人の間に流れる甘い時間に、どぎまぎしてしまう。

あれ、私達の関係って何だったっけ?偽装婚約だよね? 飛鳥さんにとっては、これも演技なのだろうか。

距離が近づけば近づくほど、この関係のことを思い出して何故か悲しい気持ちになる。
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