副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
不意に涙が溢れてしまいそうになった。でも、泣くのも変なので、涙が溢れないよう唇を噛み締める。


「澪、どうした? 大丈夫か?」

「いえ、何でもないです!温かいうちに、早く食べちゃいましょう!」

 
何とか作った笑顔を向けて、急いでカレーを平らげた。

その後は、借りた部屋に荷物を広げ、明日の仕事に備えて準備をする。
 
荷物を片付けている間、飛鳥さんは「大成から連絡があった」と言って、自室にこもって仕事をしていた。


日も暮れてきた頃、そろそろシャワーでも借りようかと思っていた所に「コンコン」と扉をノックする音がした。


「はい」

「澪、入るぞ。明日なんだが、急遽、名古屋に1泊2日の出張になった」

「そうなんですね、分かりました」

「あと、父親に澪のことを電話で伝えたら、早く会いたいと言っていたよ。もう少し落ち着いたら日程調整させてほしい」

「はい。社長お忙しいでしょうから、少し先ですかね?」

「そうだな。あぁ、父は嬉々としていたから、もしかしたら秘書や近しい役員には会ったらすぐに言うかもな…。その情報を耳に挟んだ水嶋専務が、何もしてこないと良いんだが。何かあったらすぐに連絡してくれ」
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