副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
嵐の前触れ
習慣とは恐ろしいもので、場所が変わってもいつも通り、早朝5時ぴったりに目が覚める。
今日から3連勤、1日休んでまた3連勤の予定だ。
飛鳥さんを起こさないよう、そろりそろりと部屋を出て準備をする。
6時前にマンションを出ようとすると、飛鳥さんが自室から出てきた。寝起きのようで、まだ瞼が半分くらいしか開いていない。
「澪、ごめん。起きるの遅くなった。もう出るか?」
「あ、飛鳥さん、起こしちゃいましたか? ごめんなさい」
「いや、良いんだ。見送れて良かったよ。気をつけてな。何かあったら連絡して」
「はい、いってきます。飛鳥さんも名古屋出張、お気をつけて」
***
飛鳥さんと別れた後は、余裕を持ってホテルに到着した。朝7時には夜勤スタッフから引き継ぎを受ける。その後もいつも通り、業務を遂行した。
毎回の宿泊で必ず追加備品セットが必要なゲストの備品を手配したり、エキストラベッドを運んだりと、忙しなく動いていた。
連泊しているゲストのランドリーバッグを回収して、ホテル内のランドリー室に運ぶ作業もある。
フロントから電話を受けて、指定された客室の前に行くと、大体のゲストが部屋の前に衣類の入ったランドリーバッグを置いてくれているのだ。
今日のフロントの日勤は、水嶋美子と同期の玉ちゃんもいた。
(連泊しているゲストも多いから、ランドリーの回収が多いな)
ミスがないよう、細心の注意を払いながら進める。
しかし、昼過ぎに出社した遅番の平さんと引き継ぎをしている時、突然その電話は鳴った。