副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
時計を見ると、13時30分を過ぎた所だ。

午前中のランドリーの締切は10時。夕方までに仕上がりが必要な場合、ゲストは朝10時までにフロントに連絡する必要がある。


「ランドリー室に急ぎ対応できるか確認して、特急料金は後で客室課付けにできるか上司に確認して……ちょっと13階に謝罪に行ってくるわね」

「はいっ この後のオーダーは私に任せてください!」

 
平さんと別れ、ランドリー室に向かった。ランドリー室は外部業者なのだが、そこのボスである鉄さんに何度も頭を下げて、なんとか特急対応してもらえることになった。

急いで13階の11号室に向かう。
水嶋さんの言う「カンカンに怒ってる」がどれほどのものか想像がつかず、ドアの前で一呼吸おく。

 
ーーーコンコン
 

「客室係でございます」

 
部屋の奥から、ドスドスと近づいてくる音が聞こえる。

ちなみに客室に来る前に、急いで顧客情報は確認済みだ。対応注意ゲストではなかったのが、唯一の救いだった。

ドアが開いて、ゲストが顔を覗かせる。

 
「田中様、この度はこちらに不手際があり、大変申し訳ございませんでした」

 
深々と頭を下げる。頭上から声が聞こえた。
 

「部屋に戻ったらランドリーが置いたままで、びっくりしたよ。これ、本当に夕方に間に合うの?」

「はい、夕方仕上げに間に合うよう、対応いたします。また、特急料金等ももちろん頂きません。ご安心くださいませ」
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