副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「そう、それなら良かったよ。今度から気をつけてよね?」
「申し訳ございませんでした。ランドリー、お預かりいたします」
田中様からランドリーを受け取り、急いでランドリー室に向かう。14時前と少し遅くなってしまったが、やっとお昼ご飯が食べられそうだ。
社食に向かうと「待ってました」とばかりに、玉ちゃんが駆け寄ってきた。
「澪!」
「玉ちゃん、お疲れ様。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも無いよ〜! 澪、フロントバックが大騒ぎだよ!!」
「え、何? 1311号室の田中様の件?」
「ち・が・う! 澪と副社長の件!」
「は? なんで!?」
「なんではこっちのセリフだよー!婚約したなんて、何で教えてくれなかったの!?
え、三股ミュージシャンと二股だったの?」
「違う、違う。ちょっと待って、誰が言ってたの?」
「今日出勤してたベルのバイトの子、日曜に澪と副社長をレストランで見たって、他のスタッフに言いふらしてて。
それを聞いた水嶋さんの荒れっぷりと言ったら……もう総支配人が宥めてたんだからね」
鼻息荒く話す玉ちゃん。水嶋さんに対して、むしろ「ざまぁ」と思ってそうな節があるけれど。
「うわぁ…まさかそこから話が回ると思わなかったわ…。うちのスタッフ、本当みんな噂好きだよね」
「うん、総支配人ももちろん知ってるし、他の部署に話がいくのもここ数日以内だろうね。で!なにがどうなってるの?
って、ここ社食だから、後で電話で詳しく教えてくれる?」