副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「水嶋専務は、何か怪しい点があるんですか?」
「そうなんですよ、と言ってもまだ全部裏が取れていないので、詳細は言えないんですが……。でも、限りなく黒に近いグレーですね」
(秘書って、役員の不正まで調査するの? 凄いな…)
黙っていると、「倉田さんは大丈夫だと思いますが、今の話も内密でお願いします」と釘を刺される。
「あ、倉田さん、水嶋専務が何するか分からないので、なるべく送り迎えするようにしますね。あんまり早朝早いと対応できないかもですが」
「そんな、無理しないでください。私は大丈夫なので」
「何かあったら、俺が副社長にシメられるんで…。出来る限り対応させてください」
「はぁ、なんか本当すみません」
「他に聞きたいことはありますか? 副社長のことでも、何でも良いですよ」
うーん、そうだなと考え始める。
副社長については、まだ分からないことだらけだ。趣味とか出身とかも知らないし、なんで偽装婚約なのに甘い雰囲気になるのかも、何を考えているのかも分からない。
「飛鳥さんの甘い雰囲気って、見たことあります?」
「副社長のですか?うーん、子供の頃からの付き合いですが、ないですね。え、副社長、甘い雰囲気出してるんですか?」
「そうなんです。私が勝手に感じてるだけかもしれませんが、時折甘い雰囲気になるんです。偽装婚約なのに、何でだろう?って。気のせいですかね?」
それを聞いた荒木さんが「ブッ」と吹き出す。
そして大きな声で笑い出した。