副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
澪は可愛い -飛鳥side-
名古屋出張を早々に終えて、午後には東京に戻ってきた。秘書の大成から電話で一部始終を聞いたが、澪の様子が気になってしまい、居ても立っても居られなかった。
夕方まで名古屋の予定だったのを、爆速で仕事を終わらせた自分の集中力には、正直引いている。
ホテル・ザ・クラウンにある社食を覗くと、ちょうど澪は休憩時間のようで、今日もカレーをかきこんで食べていた。
恐らく休憩も10分程度で切り上げるつもりだろう。いつも彼女は働き過ぎだ。
フロントの玉井さんと楽しそうに会話しているのを見て、安心した。2人を見届けて、俺はデイユースで抑えている部屋に戻る。そこには秘書の大成もいた。
「悪い、今戻った。渋谷のホテル・ザ・ワールドの稼働率はどうだ?」
ホテル・ザ・ワールドとは、俺が手掛けた観光ホテルの名称だ。開業50周年を迎えたホテル・ザ・クラウンは高級・高品質といった言葉が合うが、ワールドはカジュアル・モダンをキーワードにしている。
スタイリッシュで都会的だが、ポイント的にPOPなカラーを差し込んで、大人過ぎず遊び要素を入れている。より気軽にインバウンド客にも宿泊してもらえるよう、コンシェルジュアプリを導入したりもした。
こういった新しい動きに反発していたのが、水嶋専務だ。
過去にホテル・ザ・クラウンの系列ホテルを開業する時も、ホテル全体としては慎重に進めたこともあるし、その気持ちが分からなくもない。