副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「水嶋美子も張りますか? わざと倉田さんにゲストオーダーふらなかったり、細々と嫌がらせしてるみたいですが」
「そうだな、直接手を出したりは無さそうだが、専務の娘の方も気に留めておいた方が良さそうだな」
気をつけなければならないのは、専務とその娘だけではない。俺のような、新しい動きをする者を快く思わない人間は他にも沢山いる。
そう言った人間の一部は専務派で、専務に取り入ろうといつも必死だ。
そいつらが澪に何かするかもしれない、と思うと不安は尽きない。自分が常に澪の側にいられたら、どんなに良いだろうと思ってしまう。
「というか、なんで素直に告白しないで偽装婚約にしたんですか? 副社長、マジで初恋拗らせ過ぎですよ」
「澪は俺のことが苦手だから、急に告白しても気持ち悪いだけだろう」
「はぁぁ………あと倉田さん、昔副社長に会った時のこと、副社長だとちゃんと認識してないんだと思いますよ」
「まぁそうだろうな。俺も幼かったし、雰囲気も全然違かっただろうから」
そう、彼女がホテル・ザ・クラウンに入社する前、俺たちは2度会ったことがある。その時会った人物は俺だと、彼女は認識していないようだ。
「5年前、久しぶりに会った澪が素敵な女性に成長してて、驚きの余り固まってたら無愛想な印象を与えてしまったようだし……」
「なにそれ、本当面白すぎなんですけど」