副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
はぁ、とため息をつく。澪を前にすると、途端に自分の頭が上手く働かなくなる。仕事ならこんなことは無いのに。
 

「どうにか繋ぎ止めたくて偽装婚約を提案して、挙句親御さんに挨拶まで行って外堀埋めてるの大分(だいぶ)ヤバいんですけど……」

「あんまり(いじ)めるなよ。むなしくなる」

「そんな副社長に朗報です。倉田さんの土日のスケジュール抑えたんで、デート行けますよ」

「何だって、澪とデート!?」
 

ガタッと立ち上がって「それは本当に本当なのか?」と大成を見つめる。小さく拳を作ってガッツポーズをしてしまった。俺は思春期の中学生か。

 
「大成、でかした。今ならいくらでも仕事やれるぞ」

「その連休の後は、たっぷり出張詰め込んであるんで。あと、倉田さんに好意が伝わってなさそうなので、ちゃんと言葉にした方が良いですよ。がっちり心を掴んできてください」

「お前、結構出来るヤツなんだな」

「俺のこと出来ない奴だと思ってたんすか…?」

「いや、そういう訳では」

「本当感謝してくださいよね」

「じゃあ今日はなるべく早く帰りたいから、宜しくな」

「は?!この量の仕事、早く終わる訳……
 はぁ、マジで鬼畜過ぎんか、俺のボス」


大成はぶつくさ呟いていたが、なんとか業務を終わらせた。澪の終業には間に合わなかったが、少しでも話す時間を作れるよう急いで帰宅した。


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