副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

「そうだな……澪は休みの日に、何かやりたいことはある?」

「そうですね。天気が良ければ少し遠出して水族館とか、天気が悪ければ近場で映画館とか、どうですか?」

「いいね、どっちも行こうか」

「え、なかなかハードスケジュールですね、さすが飛鳥さん」

「そうか? 澪が疲れないようにとは思うけど、もっと色んなことを一緒に経験したい。あ、嫌な時は嫌って、はっきり言うんだぞ?」

「はい、何の映画見るか、調べておきますね。それを楽しみにお仕事頑張ります!」

「あぁ、俺もその日に向けて頑張るよ」


飛鳥さんが優しく微笑んだ。2人の間に流れるゆるやかな時間が心地良く、このまま止まってくれたら良いのに、と思ってしまった。


***


その後はゲストランナーの早番・遅番や、久しぶりにインスペクター業務も日勤でこなした。

相変わらず水嶋美子の「あれ、電話しませんでしたっけ〜?」と、とぼける攻撃に合いながらも、フロントの玉ちゃんや後輩の平さん、同じ客室課の社員からのサポートもあり、なんとか2週間を乗り切った。


そして、あっという間にデート前日になってしまった。

金曜夜に遅番業務をこなし、退勤まであと30分となった。もう22時だ。そして、客室課のオフィスで閉め作業をしながら、あることに気が付いた。


(どうしよう、どの映画を見るか全然調べられてない……)


日々の業務に追われて、デートの準備が何も出来ていなかった。

 
ーーープルルッ

「はい、客室課 倉田です」
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