副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

副社長からの提案

ホテル・ザ・クラウンの36階は、全部屋スイートルームになっている。

副社長は36階の1号室に連泊しているらしく、指定の部屋の前に到着した。そしていつもの癖で、ドアの前に立つとピシッと姿勢を正してしまう。


ーーーコンコン

「客室係でございます」

ドアに向かって人が近づいてくるのが伝わる。
ガチャ、と扉が開いて、副社長が顔を覗かせた。


「倉田さん、待ってたよ。中どうぞ」

「失礼致します」


副社長に入るよう促され、客室に入る。


副社長、七瀬飛鳥(ななせ・あすか)。
年は確か私の5つ上で32歳。今年33歳になるはずだ。

東京にあるホテル・ザ・クラウンと、名古屋・大阪・福岡・沖縄に4つの系列ホテルを運営する、七瀬ホールディングスの副社長を務めている。

彼の父親が社長なので、「御曹司」や「ジュニア」といった呼ばれ方をしている。


でも、私は「御曹司」という『親の七光り』のような言い方に違和感を持っていた。
 
なぜなら、彼の経営手腕は本当に凄いからだ。
七瀬ホールディングスの子会社では、社長を兼任している。


地方の旅館を買収してリノベーションしたかと思えば、都心にカジュアルでモダンな観光ホテルを開業したり、はたまた一部のホテルでコンシェルジュアプリを導入したり……と、とにかく新しいことに挑戦し、それらを全て成功させている人だった。
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