副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「倉田さん、お疲れ様です。フロント竹田です。この時間に本当に申し訳ないんですけど……」
「あ、もしや何かありました?」
(この時間に来るこの手の電話は、嫌な予感しかしないな。終電で帰れると良いんだけど…最悪、ホテルに泊まりかな)
「本っ当に申し訳ないんですけど、1803に宿泊したゲスト、客室で結婚指輪を無くしてしまったらしくて。高価なもので忘れ物があれば、インスペクターから直接電話が来るはずなんですが……多分、台帳にも記入無いですよね?」
「すぐ台帳確認するので、少し待ってもらえますか?」
手元にある忘れ物台帳を確認する。今日の忘れ物は、細かいものからスマホといった貴重品まで、全11部屋分だった。でも、指輪の忘れ物は記載がない。
1803の状況を確認すると、今夜は売りに出ておらず、誰もチェックインしていない状態だった。
「まずは客室をひと通り見てきますよ。今はオーダーも少ないので」
「倉田さん、いつもありがとうございます……本当、今日の遅番が倉田さんで良かったです」
終話して、18階に移動する。指輪のような小さいものであれば、どこかに挟まっているかもしれない。清掃担当のメイドさんが見落としている可能性も否定できなかった。
ベッドの下や、ソファの隙間などを探していく。しかし、ひと通り探しても見つからない。
(案外、ゲストの手元にあったりして?)
業務用のスマホから、フロントに電話した。
「もしもし、竹田さん? 客室には指輪無さそうです。ゲストが持ってる可能性は無いですか?」