副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「客室には無いですか……僕もそう思ってゲストに確認したんですけど、絶対部屋に置いてきたって言い張ってて…他にありそうな場所、思いつきますか?」
(うーん、ないことはないけど……それをやると今日帰れるか怪しいな。でも、明日以降に回したら、逆に見つからなくなる)
「あることにはあります。今日18階から出たゴミとリネン類、全部ひっくり返して探せばあるかもしれません」
「倉田さん……それ、お願いしても、良いですか……?本当すみません、それでも無ければ、ゲストにはそう伝えられるので」
ふぅ、と小さくため息をつく。
でも、これも仕事だ。
正直、水嶋親子の件もあって(まさか竹田さんも水嶋派…?わざと?)という考えも一瞬よぎった。
誰を信じたら良いのか分からない、という状況も正直きつい。でも、竹田さんはきっと違う、と言い聞かせるしかなかった。
「分かりました。その代わり、もしゲストからオーダーが来たら夜勤スタッフかベルに回してもらえますか? 何としてでも見つけたいので」
「もちろんです!倉田さんには電話しないよう、フロントのスタッフに周知しますね。いつも本当にありがとうございます…!」
竹田さんが半泣きでお礼を言っていた。でも、手伝いに来てはくれないのか、とも思ってしまう。
「さーて、全部ひっくり返しますかぁ」
そう言って、18階のバックヤードで腕をまくる。
まずはリネン類をひっくり返した。ワンフロア・全20部屋分のシーツ、コンフォーター、ピローケースを一枚一枚見ていく。ものすごい量だった。でも、隙間に指輪が挟まったりはしていない。