副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

無心でバッサバッサと布をはたくが、たまに飛鳥さんの顔がチラつく。明日はデートだというのに、終電で帰れる可能性も低くなってきた。
本当は着る服だってゆっくり選びたい。


(絶対、終電には間に合わせる……!)


時間との戦いだった。リネンを元のカゴに全て戻して、次は20部屋分のゴミをひっくり返す作業に入る。

一つひとつ、ちり紙も含めて確認していく。それらしい物は無いな…と半ば諦めかけていた所、くしゃくしゃになっているちり紙に、異質な固さを感じた。


「あー……絶対これだわ」


ちり紙を開くと、そこには指輪がコロンと包まれていた。


「これはメイドさんも、ゴミだと思うよね。鼻水をかんだ後かな?とかさ」


薄暗いバックヤードで、つい独り言が漏れてしまう。時計を確認すると、23時まで後数分、最初に電話を受けてからもうすぐ1時間が経つところだった。


「もしもし、倉田です。竹田さんいますか?」

「はい、フロント竹田です。倉田さん、帰りが遅くなってしまって本当にすみません。指輪、厳しいですかね?」

「ありましたよ、ちり紙にくるまっててびっくりしました」

「本当ですか…!?わぁ……本当に良かったです。お客様、絶対に喜びます。メール入れて、明日お電話もしてみますね。倉田さん、本当にありがとうございました!!」
 

無事、電話を終えてひと息つく。


(あぁ、早く飛鳥さんのマンションに帰らなくちゃ。でも、飛鳥さんもう寝てるかな?)


そんなことを思いながら、急いで帰宅の準備をした。
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