副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
ホテルを出て(やっと落ち着いてスマホを見れる……)と思った途端、電話が鳴った。着信元に「七瀬飛鳥」と表示されている。
「もしもし? 飛鳥さん、すみません連絡もできなくて」
「いや、大丈夫だよ。それより、前見て?」
「前?」
と言って視線を上げると、車が停まっている。中から手を挙げる飛鳥さんの姿が見えた。
(嘘、もしかして、迎えに来てくれたの?)
疲れた体はまるで砂漠のようで。飛鳥さんの登場は、砂漠に突然現れたオアシスのごとく、干からびた心身をどんどん潤してくれる。
「迎えに、来て下さったんですか…?」
「あぁ、仕事でトラブルだろうなとは思ったんだけど、心配で。家まで車で帰ろう」
「はい、ありがとうございます。絶対に終電を逃したく無いとかなり気を張っていたので、正直本当に助かりました」
そう言って、助手席に乗り込む。
デートの前日だというのに、相変わらず仕事は大忙しで。多分、今も化粧が落ちて、ボロボロになってるんだろうなと思う。満身創痍だった。
「飛鳥さん、今日も私を甘やかしてますね」
そう、こういうトラブルはよくあるので、わざわざ誰かに迎えに来てもらうほどでもない。でも、どうしようもなく嬉しい自分もいる。
「そりゃもちろん、大事な婚約者様ですから」
(偽装の、ね)
という突っ込みが頭をよぎったが、すぐにかき消した。今日は素直に飛鳥さんの好意を受け取ろう。
色々と話したいこともあったが、車の揺れが気持ち良く、ついウトウトと眠ってしまった。
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