副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「倉田さん、良かったらそこ座って」

そう言って、ビロード地の長いソファに座るよう促される。

(副社長と話すの、久しぶりだなぁ)

そんなことを思いながら、じっと見つめる。

御曹司というのを抜きにしても、副社長はその見た目からもかなりモテる。整った顔立ちに、ビシッと整えられた艶のある黒髪。身長も180cmくらいあり、スーツ越しにも鍛えていることが分かる。


「どうした? そんなに見つめて」

「あっいえ、すみません。お話をするのが久しぶりだなと考えていました」

「確かにそうだな」


そう言って、副社長はサイドテーブルに置いてある水を飲む。


「それで、副社長のお話というのは、何でしょうか?」


何か人事に関わることだろうか?
いや、異動は人事部から通知が来るだろうし、副社長がわざわざ呼びつけることでもない。

やっぱり、私、何かやらかした…?

副社長の出方を伺う。
すると、全く予期しない言葉が返ってきた。


「倉田さんは、お見合いをするのか?」

「……はい?」

「さっき、社食で話していただろう。お見合いを前向きに検討すると」

「あぁ、同期の玉井さんと話していた件ですね。はい、私は特に結婚に対して焦りはないのですが、周りがそれを許さないというか……。

 母のためにも、一度お見合いを受けてみようかと思っています。でも、それが副社長と何の関係が?」


質問の意図が分からず、きょとんとしてしまう。
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