副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
車を1時間ほど走らせて、水族館に到着した。都内の水族館に比べると、広々としていて歩きやすい。
でも、飛鳥さんは昨日と変わらずの対応だった。
「はい」
そう言って手を差し出す。手を繋いで歩こう、ということなのだろう。私は黙って手を差し出した。
相変わらずというか、私は男性に対する甘え方がいまいち分からない。昨夜言いたい放題言ったのに、2人の距離が変わらないことにほっと安堵した。
そして恋人繋ぎをしたまま、水族館を見て回る。
水族館に入ると、イワナやヤマメといった川魚の展示から始まり、トンネル型の水槽ではエイが優雅に泳いでいた。
「うわぁ、飛鳥さん見て下さい! すごい!」
マイワシの大群が群れを作って、ぐるぐる回っている。止まらない動きに、こちらも目が回りそうだ。
「澪、こっち。すごく綺麗だよ」
飛鳥さんの指す方向に視線を移すと、そこには宝石箱のような世界が広がっていた。
サンゴ礁の周りを青い色をしたナンヨウハギや、黄色い色をしたコンゴウフグ、赤い色をしたアカネハナゴイなど、色とりどりの魚が鮮やかな世界を作っていた。
「本当に綺麗ですね……」
こういう時に、この美しさを素敵な言葉で形容できたらどんなに良いか。そんな言葉も持ち合わせておらず、ただただ見惚れるだけだった。
いつの間にか、飛鳥さんがこちらを見つめていることに気付いた。
「飛鳥さん? すみません、魚たちに見惚れてました」
「いくらでも見てて良いよ。俺は澪を見てるのも楽しいから」
「えっ 私は展示されてないですよ?」