副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「もうっ」というと、飛鳥さんはクククと喉の奥を鳴らすように笑っている。すると声のボリュームを落として、囁くように話した。


「展示なんかしない。他の人に見せたくないし」

(は、恥ずかしげもなく、さらっと言ったぁぁ)


顔に熱を帯びながら、次の展示コーナーを見て回る。途中、館内のレストランでご飯を食べてから、イルカショーも見た。

イルカショーでは飛鳥さんも「おぉー」と反応していて、楽しんでいるようだ。今日のデートが、少しでも息抜きになっていたら嬉しい。


期間限定で開催していた深海魚展まで見て、出口に辿り着いた。グッズショップに入って、ついペンギンのぬいぐるみをじっと見つめてしまう。


(ふわふわしてて可愛い…)


実は、水族館でよく見る動物の中でも、結構ペンギンが好きだ。今日も飼育員さんの解説を聞くのが楽しくて、ついペンギンエリアで長居してしまった。


「澪、これ記念に買ってあげる」

「え、そんな悪いですよ。というか、何記念ですか?」

「うーん、水族館デート記念?」

「なんですかそれ」と言いながら、ぷっと吹き出してしまう。この調子では、何でも「〇〇記念」と言ってきそうだ。

でも、そのぬいぐるみはとても可愛くて、自分でも記念に買おうかなと思ったくらいだ。サイズがやや大きいので、買うか迷っていたのだけれど。


「じゃあ…お言葉に甘えて、水族館デート記念に良いですか?」

「うん、もちろん」


そう言って、飛鳥さんがペンギンのぬいぐるみを買ってくれた。大事にしよう、と袋に入ったペンギンをぎゅっと抱き抱える。

その後グッズショップを出て、すぐ隣にある公園のベンチに座った。


***
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