副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「澪、今日は楽しかった?」
「はい、とっても。ペンギンもありがとうございます。飛鳥さんは楽しめました?」
「うん、水族館なんて何年ぶりかな? 子供の時以来かも。でも、澪と一緒に色々見れて楽しかった」
そう言って、こちらに笑顔を向ける飛鳥さん。
じっと私を見つめたまま、その顔は真剣な表情に変わった。
「……澪、大事な話がある」
「はい……なんでしょうか?」
飛鳥さんは真っ直ぐに私を見据えている。でも、どう伝えようか、迷っているようにも見えた。
(そんなに言いづらい話…?)
ふぅ、と一呼吸置いた飛鳥さんを、ごくりと喉を鳴らして見守る。そして飛鳥さんは、一思いに言い放った。
「この偽装婚約を終わりにしたいんだ」
ーーープルルッ
「……大成から電話か、あいつ本当にタイミング悪過ぎないか?」
「電話、出て、大丈夫ですよ?」
「悪い、ちょっと待ってて」
そう言って、飛鳥さんは少し離れた所に移動する。
(え、今、偽装婚約を終わりにしたいって言ったよね? それって、飛鳥さんに好きな人か、結婚したいと思う人が現れたってこと……? 嘘でしょ……)
このタイミングでの予想しなかった発言に、呆然としてしまう。というか、聞きたくなかった。
電話を終えた飛鳥さんがこちらに戻ってきた。ばつの悪そうな顔をしている。
「タイミングが悪くてすまなかった。トラブルがあって、少し早めに出張に行く必要が出てきた。
と言っても、一旦電話で指示だけ出して、明日の朝一出発で大丈夫そうだ。澪の早番の時間と同じくらいかな。って、澪、大丈夫か?」