副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「何が、ですか?」
「顔面蒼白というか、ものすごく体調悪そうなんだけど」
「飛鳥さん」
「ん?どうした?」
飛鳥さんは変わらず私に優しい笑みを向ける。
でも今の私には、残酷に突き刺さる刃でしかない。
「さっき偽装婚約を終わりにしたいって話」
「うん」
「飛鳥さんに、好きな人か結婚したい人ができたって、こと…?」
「いや、好きな人ができたというより、ずっと好きだったっていう方が正しいんだけど」
「え…?それって…」
(ずっと好きな人がいたのに、私に偽装婚約を提案したっていうこと……?)
そう思ったが最後、もうダメだった。我慢していたものが決壊して、感情が溢れ出てくる。ぼろぼろ、ぼろぼろと零れ落ちていった。
「澪!? え、どうした? そんなに俺の気持ちが嫌だった?」
「ひっく…うぅ、なんで、っく、好きな人がいるのにっ 私に偽装 ひっく 婚約、提案 したのっ? もう、こんなに好きに、させておいて ひどいよぉぉ…」
飛鳥さんの頭の上に「!??!」とはてなマークとびっくりマークがいっぱい浮かんでいる。そして突然合点がいったようで、一歩前に出た。
「澪」
そう言った瞬間、ふわっと私を抱きしめた。ぎゅうううと力が込められて、振り解けない。
ドンドンッと飛鳥さんの胸を叩く。
「嫌! 好きな人がいる癖に、こんなことしないで!!」
「その好きな人が、澪だって言っても?」
「……へ?」
止まらない涙をそのままに、飛鳥さんを見上げる。 今、なんて言った? あ、多分今の私、ものすごく間抜けな顔してるかも。