副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「本当に大成が悪いな、これは。タイミング悪過ぎ」
「どういうことです?」
「俺はずっと前から、澪が好きだったんだ」
「え……その、いつから?」
「うーん、澪は俺と初めて会った時のこと、覚えてない?」
「5年前の、あの超無愛想な飛鳥さんのこと?」
「いや、もっとずっと前。確かに好きだと自覚したのは5年前くらいだけど……でも、もっと前のことは澪に思い出してもらいたいな」
「え?? ちょっと待って、そもそも何で、好きだったのに偽装婚約を提案したの?」
「それは、澪を繋ぎ止めたかったから。でも、澪は俺のことが苦手だったろう? 普通に告白したんじゃ勝ち目がないと思って」
「えぇ…?」
もう完全に混乱していた。
飛鳥さんが好きな人は私で、それもずっと前から好きで、好きなのに偽装婚約の提案をした……?
訳が分からな過ぎて、知恵熱でも出そうだ。
「飛鳥さん、なんか、よく分からなくなってきました」
「いや、そうだよな。ここで立ち話するのもなんだから、一旦家に帰ろうか」
その後は、珍しく感情を爆発させた疲れからか、飛鳥さんの運転する車でウトウト寝てしまった。
気付いたらマンションの車庫に到着していた。
***
「澪、大丈夫か? 移動できる?」
「はい…すみません、すっかり寝ちゃってました」
「動けないなら、抱っこして連れて行こうか?」
飛鳥さんがニヤリと揶揄うように笑いながら、私の顔を覗き込む。
「ダメです!!恥ずかし過ぎます」
「はは、冗談だよ。澪はすぐ本気にするからなぁ」
「もうっ!」と怒りながら、私は車をすぐに降りた。