副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

その後は、ご飯を作ろうとしたけれど「澪も疲れてるだろうから、今日はデリバリーにしよう」と飛鳥さんが気を遣ってくれた。

明日からはまた早番勤務で、飛鳥さんも朝一には福岡に移動することになったので、お互い準備を進める。

お風呂にも入り、あとは寝るだけという時に、扉を「コンコン」とノックする音がした。「はい」と返事をすると、飛鳥さんが「澪、入るぞ」と言って部屋に入ってきた。


「どうしましたか?」

「その……今日は、一緒に寝ないか?」

「え、それは……」

 
(それは、体の関係になるということ!?)

 
一人わたわたと動揺していると、プッと飛鳥さんが吹き出した。

 
「澪、また顔と態度に出てるぞ? 考えてること」

「え!? は、恥ずかしい……」

 
これではまるで、自分から「抱いてほしい」と言っているようなものではないか。
恥ずかし過ぎて、穴があったら入りたい…。

 
「大丈夫、今日は何もしないから。当分出張で会えなくなるから、澪を抱きしめながら寝たいんだ」

 
「だめか?」とまた子犬(というより大型犬)が顔を覗かせる。

 
「そんな風に甘えてくるのは、反則です」

 
「えっ」とショックを受けている様子の飛鳥さん。これはさっきのちょっとした仕返しだ。でも、私の答えは決まっている。

 
「もちろん、良いですよ」

「そうか、良かった。準備できたら俺の部屋に来れるか? こっちの方がベッドが大きいから、寝やすいと思う」

「わかりました、行きますね」


寝る準備を万端にして、飛鳥さんの部屋に向かう。私がこの部屋に足を踏み入れるのは、今夜が初めてだ。
< 69 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop