副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「お見合いに前向きじゃないのなら、俺と婚約しないか?」

「……へ?」

「俺と、偽装婚約をして欲しいんだ」

「え?……えぇぇぇぇ!?」


突然の提案に戸惑い、つい大きな声を出してしまった。

いや、だって、あの副社長だよ?
偽装婚約ってどういうこと!?


「あの、すみません、突然の提案にびっくりしてしまって…。それって副社長にとって、何のメリットがあるんでしょうか?」


あの水嶋美子だったら「ジュニアと婚約!?最高〜!!」と手放しで喜んで、「偽装」ということもうやむやにして結婚まで猪突猛進してしまいそうだが、私は違う。

そもそも、副社長の第一印象があまり良くない。

 
「倉田さんは、保守派の水嶋専務が、俺のような改革派を良く思っていないことは知っているか?」

「…はい、そうですね。水嶋専務の敵意は、少し感じています」

 
正直に答える。水嶋専務は生粋のホテルマンだ。現場からの叩き上げで、ようやく専務の地位に上り詰めたと聞いている。

入社当初は仕事に対する熱意もあったようだが、私が入社した頃には既に、誰かを蹴落としてでも地位やお金に執着する水嶋専務が出来上がっていた。


「水嶋専務は、自分がいつか社長の座に収まる、ということしか考えていない。うちは『七瀬ホールディングス』という名前ではあるが、世襲という訳でもないから、実際なろうと思えば誰でも社長になれるんだ。

 とはいえ、娘の水嶋美子を俺の結婚相手にどうかとしつこく迫ってきたり、かと思えば俺の足元を(すく)おうと常にチャンスを伺っている。足元は注意していればいいが、結婚相手に関しては相手が必要だ」
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