副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
ノックをして部屋に入る。先ほどはお風呂に入る前だった飛鳥さんも、パジャマ姿になっていた。


「お邪魔します」

「ん、どうぞ。澪、こっちおいで」

 
ベッドに腰掛けた飛鳥さんに手招きされる。何もしないとはいえ、私の緊張は最大値まで高まっていた。

 
「し、失礼します」

「はは、澪、緊張しすぎ」

 
ベッドに入ると、そこで待っていた飛鳥さんから抱き寄せられる。私は飛鳥さんに背を向けた状態で、後ろから抱きしめられる形になった。

飛鳥さんの体温が伝わってきて、落ち着くのと緊張とで、感情がないまぜになっていた。


「はぁ、本当、澪とすれ違ったまま出張期間に突入しなくて良かった……」

「そうですね、いや、でもあれはかなり勘違いしましたよ?」

「大成が悪い。明日会ったらシメないとな」

「飛鳥さん、怖い。それはやめて?」


2人の仲の良さを考えると、「シメる」と言ってもじゃれあう感じだろうか? そうだといいな、と思いながら目を(つぶ)る。

 
「澪」

「はい」

「組織が崩れる時って、実は外から攻撃された時じゃなくて、内側から崩れるんだよな」

「……はい」

(突然、経営の話…? いや、何か伝えたいのかな)

 
「俺達が付き合っていく上で、周りから何か言われたり、されたりすることもあるかもしれない」

「そうですね、現にありますし…」

「でも、ちゃんとお互い話し合って、不安を解消したりするのは大事だと思ってる。 周りが何と言おうと、俺が大事に思っているのは澪だから」


その言葉を聞いて、体から湯気が出てしまいそうなくらい熱くなっていく。
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