副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

「でも、今回は物凄く仕事ができる人って噂。見た目もかっこいいし、早速狙ってるスタッフがいたわ。ったく、自分が釣り合うと思ってるの、自信過剰よね」

 
水嶋専務は、秘書への当たりも癖も強いので、人の入れ替わりが激しい。

先日荒木さんを睨みつけていた秘書も、もうお役御免となったのか、秘書が自ら見切りをつけたのか……。あの専務に合う秘書など、世の中にいるのだろうか?

 
「私はもう上がっちゃうけど、日勤は水嶋美子がいるから気をつけてね。

 あ、この間、竹田君のゲストの指輪見つけたんだってね? 竹田君、本当に澪に感謝してたよ。今日の日勤もいるから、何か困ったら竹田君に連絡してみて」

「玉ちゃん、いつもありがとう。助かるよ」


そう言って、玉ちゃんは去っていった。そして私も業務に戻る。今朝の早番業務は「ちょっと変だな?」と思うくらいに、フロントからオーダーの電話が鳴らなかった。

(まぁ、そういうこともあるかな?)

電話が鳴らないなら、他にできる作業をやろう。そして1時間以上が経過して、久しぶりに業務用スマホが鳴った。
 

ーーープルルッ

「はい、客室課 倉田です」

「倉田さん、お疲れ様でーす。水嶋です。オーダーたくさんあるんですけど、良いですかぁ?」

「はい、何件でしょうか?」

「全部で、6件かしら? 920と3411でランドリーピックアップ、1709が加湿器追加、2501がつめ切り貸し出し、1703は空調がおかしいから見に来てって。あともう一件は…なんだったかしらぁ? 竹田さん、覚えてる〜?」

「え、これ最初のオーダーって何分前に来たんですか? そんなにフロント忙しい感じです?」

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