副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「そんなに経ってないわよぉ、1時間前くらいかしら? 今日もフロントは忙しいの。あともう一件は思い出したら連絡するわ。じゃ、お願いしまーす」

「ちょっ……水嶋さん!」


さすがに今日こそは言い返してやろうと思ったが、ブチッと切られてしまった。ゲストに迷惑をかけるのだけは、本当に勘弁してもらいたい。

はぁ……とため息をつく。加湿器やつめ切りを持って、全部さばこうと準備をしている時だった。パタパタとこちらに向かって走ってくると音がする。


「倉田さん!」

「え、竹田さん?どうしたんですか?!」

「ちょっと失礼します、オーダーメモした紙、借りて良いですか?」

「はい? あ、どうぞ」


それを受け取った竹田さんが、客室課の内線電話を手に取りどこかに電話をかけている。かけている番号を覗くと、それはベルデスクだった。


「もしもし、お疲れ様です。フロント竹田です。ゲストランナーで緊急の対応があって、ベルにオーダーふって良いですか?……はい、そうです、お願いします。

 920と3411でランドリーピックアップ、2501がつめ切りのデリバリー、あと1513にボディシャンプー追加で」


1513のボディシャンプーは聞いていないので、水嶋さんが「忘れた」と言っていたオーダーのことなのだろう。

(え、竹田さん、まさか助けに来てくれたの……?)

突然のことで呆気に取られていると、電話を終えた竹田さんがこちらに向き直った。
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