副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか？〜

「すみません、もう水嶋さんの仕事のやり方に納得いかなくて。倉田さんに対する八つ当たりかもしれませんが、ゲストには関係ないことです。

　この前のお礼と言っては何ですが、これくらいやらせてください」

「竹田さん……」

「17階のオーダーだけ残したので、加湿器を持って行っていただいて、その後空調の方を対応していただけますか？

　もしすぐに直らなければルームチェンジになると思うので、空き部屋確認しておきますね」


竹田さんの対応は完璧だった。空調不備に関しては、ベルスタッフでは判断が難しい。

高齢のゲストであれば、エアコンのリモコン操作が間違っている場合もあるし、本当に不備で別の部屋に移動して頂く場合もある。

その場合は部屋を売り止めにして、専門部署に確認してからまた売りに出す必要があった。


「竹田さん、本当にありがとうございます。助かりました。早速17階に行ってきますね」

「いえ、とんでもないです。今回の件、アシスタントマネージャーには報告しておきますね。総支配人はやや専務寄りなので、やめておきます。

　あと、他にも共有があるのですが……また業務が終わる頃に声かけますね」

「……？ はい、わかりました。また後ほど」


そう言って、私は加湿器を片手にオフィスを出た。1709号室には加湿器をセットして、難なく対応を終えた。次は、問題の1703号室だ。

　
ーーーコンコン

「客室係でございます」

扉がガチャッと開く。出てきたのは、一見気難しそうな高齢の男性だった。