副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
2人で「乾杯」とグラスを合わせた。


「竹田さん、早速ですが、まずは指輪のお客様の件ですかね?」

「はい、指輪のお客様、実は三浦様の奥様なんですよ」

「え、三浦様って、昨日空調の対応をした?」

「そうです。いつもは年に1回泊まりにくる位なのですが、今回はたまたま、あまり日を置かず再訪になりまして。奥様からお菓子をいただきました」

 
そう言って、竹田さんが袋からお菓子を取り出す。
出てきたのは、福岡土産でお馴染みの「博多通りもん」だった。


「三浦様って福岡の方なんですね。通りもん、好きなので嬉しいです。ありがとうございます」

 
福岡土産を見て、また飛鳥さんの顔が頭を(よぎ)る。
出張が始まってまだ2日目なのに、もう会いたくなっている。こんな調子じゃ、飛鳥さんの長期出張に耐えられる気がしない。

 
「ホテルで渡してみんなで分けるでも良かったのですが、副社長の件も話したかったので……」

「そうですよね。あ、ご飯きましたよ」

 
今回竹田さんと来たのはディナー営業もしているカフェレストランだった。前菜盛り合わせやグリーンサラダがきて、せっせと取り分けていく。

 
「あ、倉田さん、ありがとうございます」

「いえいえ、どうぞ食べてください」

「はい、それじゃあ、いただきます」


2人でご飯を食べながら、本題の話に移る。今日はこのために来たようなものだ。

 
「それで、副社長の件というのは?」

「それが……」

 
と言って、竹田さんは声のボリュームを落とした。
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