副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
2人でレストランを出て、駅方面に向かって歩き出す。ホテルからも駅からも若干距離があるので、騒音もなく、静かな夜道が続いた。
その時の私は、ぼーっとしながら歩いていたと思う。何も無い所で、足を踏み外してしまった。
「わっ!」
「倉田さん…!」
竹田さんがすかさず体を支えてくれた。軽く抱き合う形になり(えっ!?)と離れようとするが、なぜか竹田さんに抱きしめられてしまった。
「あの、竹田さん? すみません、もう大丈夫なので…」
「倉田さん、すみません。でも、僕、倉田さんのことが前から好きだったんです」
「へ…?」
「今日、副社長の件を伝えて、婚約したと言っても2人の関係はまだ浅いんじゃないかなと思いました。もしまだ可能性があるなら、僕のことも考えて欲しいです」
そう言って真っ直ぐ見つめる竹田さんの視線は、いつもの弱気な後輩ではなく、完全に男の目線だった。でも、私は竹田さんの胸を押し返す。
「竹田さん、酔ってますよね? それに、私は副社長のことが、飛鳥さんのことが好きなんです。まだ付き合って日が浅いかもしれませんが、他の人のことは考えられません。ごめんなさい」
「……そう、ですか。すみません、酔った勢いで言ってしまって」
「こんなんじゃダメですよね」と弱々しく笑う竹田さんの表情に、少し胸が締め付けられてしまった。
明日から、また同僚として普通に接することができるだろうか。その後、再び静かな道を2人で歩き出し、無言のまま駅に辿り着いた。
「それじゃあ、また」
「はい、倉田さん、おやすみなさい」
そのまま別れて、飛鳥さんのマンションに帰宅した。今夜の出来事が、後の事件に繋がるとは思いもよらなかった。
***
その時の私は、ぼーっとしながら歩いていたと思う。何も無い所で、足を踏み外してしまった。
「わっ!」
「倉田さん…!」
竹田さんがすかさず体を支えてくれた。軽く抱き合う形になり(えっ!?)と離れようとするが、なぜか竹田さんに抱きしめられてしまった。
「あの、竹田さん? すみません、もう大丈夫なので…」
「倉田さん、すみません。でも、僕、倉田さんのことが前から好きだったんです」
「へ…?」
「今日、副社長の件を伝えて、婚約したと言っても2人の関係はまだ浅いんじゃないかなと思いました。もしまだ可能性があるなら、僕のことも考えて欲しいです」
そう言って真っ直ぐ見つめる竹田さんの視線は、いつもの弱気な後輩ではなく、完全に男の目線だった。でも、私は竹田さんの胸を押し返す。
「竹田さん、酔ってますよね? それに、私は副社長のことが、飛鳥さんのことが好きなんです。まだ付き合って日が浅いかもしれませんが、他の人のことは考えられません。ごめんなさい」
「……そう、ですか。すみません、酔った勢いで言ってしまって」
「こんなんじゃダメですよね」と弱々しく笑う竹田さんの表情に、少し胸が締め付けられてしまった。
明日から、また同僚として普通に接することができるだろうか。その後、再び静かな道を2人で歩き出し、無言のまま駅に辿り着いた。
「それじゃあ、また」
「はい、倉田さん、おやすみなさい」
そのまま別れて、飛鳥さんのマンションに帰宅した。今夜の出来事が、後の事件に繋がるとは思いもよらなかった。
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