副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
そんな呑気な言い方をするのが、庄司さんである。砕けた雰囲気だが、いざという時必ず自分の部下を守ってくれる、とても信頼のおける人だ。
対して、総支配人は、竹田さんからも「やや専務派」と聞いている。専務の権力に縋っているというより、長年このホテルにいるからこそ「古き良きを守る」思考なのかもしれない。
「倉田さん、今朝のメールの件を確認したいのですが」
「まぁまぁ、総支配人。倉田も今来たばかりですし、事実確認は私の方で対応しますので。また後ほど報告で良いですか?」
言い方は柔らかいが、有無を言わせない視線だ。総支配人も一歩下がった。
「分かりました、この場は庄司さんに任せます。必ず報告してくださいね」
「はーい、了解です。倉田、奥の部屋に来れる?」
客室課支配人用の小さな個室があり、ドアを閉めて庄司さんと2人だけになった。
「庄司さん、申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました」
「まぁ、びっくりしたけどな。メールの内容、まだ見てないだろ?」
そう言うと、庄司さんはパソコンをこちらに向ける。そこには写真が2枚添付されていた。
竹田さんが私を抱きしめている写真と、飛鳥さんが女性と楽しげにご飯を食べている写真だった。
私の写真の方は、竹田さんの胸を押し返そうとしたタイミングだったのか、自分の手が竹田さんに触れていた。よく見ないと「抱き合ってる写真」と捉えられてもおかしくなかった。
そして、写真と一緒に添えられた文章には、目を疑った。
『副社長の七瀬飛鳥と客室課の倉田澪は、婚約関係にあるにも関わらず、お互い他の異性と男女関係にある』