副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「庄司さん、さすが恋愛熟練者ですね」
「それ褒めてる?」
「いえ、あまり」
そんな話をして、私はいつも通り日勤の仕事をこなした。今日は真っ直ぐ帰って、飛鳥さんと直接話しをしようと、急いでホテルを後にした。
***
マンションに戻り、飛鳥さんに電話をかけようと一呼吸置く。
何て言われるだろうか。緊張しながらスマホを見つめ、勢いで通話ボタンを押した。
「……もしもし、澪?」
「すみません、飛鳥さん、今大丈夫でしょうか?」
「あぁ、悪い。俺も連絡しようと思ってたんだが、業務と調査で立て込んでた」
「調査って……今朝のメールの件ですか?」
「そうだな、今は大成が詳細を確認中だ。澪、大丈夫か?」
「はい、私の方は大丈夫です。飛鳥さんは……椿さんと会食されてたんですか?」
「あぁ、正しくは椿家の親子とな。娘の麗香とは幼馴染みたいなもので、あいつもよく会食に顔を出すんだ」
「その麗香さんと、付き合っていたんですよね?」
自分のささくれ立った気持ちが、どんどん溢れ出てしまう。こんな話がしたい訳じゃないのに、止まらない。
「付き合っていたというか……って、それ、誰から聞いた?」
「竹田さんからです」
「そんな過去の話は良いから。なんで澪は竹田と2人で会うこと、教えてくれなかったの?」
(そんな話って……私にとっては大事なことなのに)
「それは、ただの同僚で何の感情もなかったから、わざわざ言う必要もないと思いました」