副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「俺にはちゃんと事前に共有しておいて欲しかったよ、後ろめたさが無いなら余計に。
 それに、水嶋専務は、澪の動きを探偵使って張ってたんだよ。だから、気をつけて行動する必要があった」

「そんな……と言うか、探偵? なんで飛鳥さんがそれを知ってるんですか?」

 
(後から調べて分かったのかもしれないけど、もし事前に分かっていたのだとすれば……)

 
ドクンドクンと大きな音が聞こえてくる。これを言ったら終わりかもしれない、でも。

 
「飛鳥さん、分かってて泳がせたんですか? もしかして、私を囮にした?」

「そういう訳では……でも、事前に止められたかもしれない。それは悪かった」

 
(あぁ、ダメだ。私、囮にされたんだ…。酷い、信じられない)


「すみません、飛鳥さんともう話したくありません。失礼します」

「澪!」

 
ブツっとスマホを切った。いつの間にか、ぼろぼろと涙が溢れて止まらない。
 
恐らく飛鳥さんも何か考えがあって、敢えて私に言わなかったのだろう。でも、事前に教えてくれなかったことや椿さんの件も相まって、もう感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 
(はぁ、早めに前のマンションに戻ろう……今ならまだ後戻りできるかな)


スマホを見ると、同期の玉ちゃんからメッセージが届いていた。


「澪、今日全然話せなかったから、明日一緒にご飯行かない?日勤でしょ?」

 
恐らく玉ちゃんも心配してくれているのだろう。その気持ちは嬉しかった。

「うん、ご飯行こう」と、返信を打つ。玉ちゃんにはどこまで話したら良いのか、考えあぐねていた。


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