副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

背中を押してくれる存在


珍しく3日連続で日勤をこなした。相変わらず私は今回の事件の渦中の人として、どこを歩いていても他のスタッフからの視線がとても痛かった。

もう、神経が擦り切れそうだ。

業務を終え、逃げるようにして玉ちゃんの住むアパートに向かう。玉ちゃんとはいつも外でご飯を食べることが多いが、今日はあまり外で話せるような内容ではないと判断して、家に集合となった。

 
「澪、うちに来るのは久しぶりだよね?」

「そうだね、かなり久しぶりかも」

 
そう言って、ソファに座らせてもらう。玉ちゃんが温かいお茶を出してくれた。じんわり体が温まる。


「あの怪文書メール、本当酷かったよね。というか、澪に謝らなきゃと思ってたの」

「え、何の件?」

「竹田くんに澪の連絡先、勝手に教えちゃってごめん。副社長の件で共有したいことがあるって言われて、何か大事な話かと思って、つい……」

「ううん、大丈夫。ちょっとびっくりしたけど」

「その……副社長の件って、何だったの?」

「写真にも写ってた、椿グループの社長令嬢、椿麗香さんの件だった」

 
ふぅ、とため息をつく。昨日の飛鳥さんとの喧嘩から1日経って、多少落ち着いたとはいえ、思い出すとやはり気が滅入る。
 

「澪、大丈夫? 無理に話さなくても大丈夫だよ?」

「ううん、昨日、飛鳥さんと喧嘩しちゃってさ」

「え!?そうだったの?」

「うん」

お互いお茶を啜る。私は昨日の出来事を思い返していた。
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