副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「分かりました。副社長の提案、お受けします」

「そうか、ありがとう」


副社長はニコッと微笑む。5年前、初めて会った時はこんな風に笑う人ではなかった。

お客様の前での接客スマイルは完璧だったが、私と初めて対面した時はとにかく無愛想で。

(接客業なのに何でこの人こんなにブスッとしてるの!?)と、第一印象が最悪だった。


そんな、第一印象が最悪だった人から偽装婚約を提案され、それに対して私も了承した。人生何が起きるのか、全くもってよく分からない。
 
そして副社長が私に対してどう思っているのかも、まだよく分からない。


「倉田さんは頭もキレるのに、なんで恋愛においてはこう、抜けてるんだろうな…」
 
「……副社長、何か言いました?」
 

恐らく、玉ちゃんと話していた『三股の売れないミュージシャン(元彼)』の話をしているんだろう。え、というか副社長、話全部聞いてたの?

 
「……それで、偽装婚約をする上での決め事をしたいと思うんだが」

「はい、何でしょうか?」

「1つは、必要に応じて婚約者らしい振る舞いをすること。

 2つ目は、振る舞いを求められる時以外はお互い自由に過ごし、干渉しないこと。

 3つ目は、お互い好きな人や結婚したいと思う人が出来たら、この偽装婚約は終了。というのはどうだろうか?」

「分かりました。色々と配慮してくださって、ありがとうございます。……ちなみに、婚約者らしい振る舞いって、何をすれば良いのでしょうか?」
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