副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「飛鳥さんなりの考えがあったのかなって、信じたい気持ちもあるけど……一旦自分のマンションに戻ろうかなとも思ってる」
「普通はそうなるよね……。でもさ、澪はそれで良いの?」
「え、どういうこと?」
「まだ、副社長とちゃんと話せてないんでしょ? それで後悔しないかなって。それだけが心配」
「玉ちゃん……」
「澪って前、副社長のこと苦手って言ってたじゃない? それが、まさか婚約までしちゃってさ。せっかく好きになれたんなら、ぶつかるだけぶつかってからでも良いんじゃないかなって。澪に後悔だけはしてほしくないよ」
「そっか、そうだね…」
「とはいえ、副社長には一発、かましたいけどね! 澪に悲しい思いさせたんだから!」
「ふふ、殴らないで。ありがとう、玉ちゃん」
玉ちゃんの優しさに、涙が溢れそうになっていた。もう目は真っ赤で泣く寸前だったと思う。
玉ちゃんに背中を押してもらって、少しだけ、飛鳥さんと向き合う勇気が湧いてきた。
そんな時に突然、電話が鳴った。着信元は荒木さんだ。
ーーープルルッ
「はい、倉田です。荒木さん、どうされましたか?」
「倉田さん、お疲れ様です。今日ってもう仕事上がって家にいますか? もしまだであれば車でお送りしながら、お話しできればと思ったのですが」
「今、ちょうどフロントの玉井さんのアパートに来ているんです」
「そうですか、じゃあ迎えに上がります。あ、急がなくて大丈夫ですからね? 私だけ一旦福岡から東京に戻ってきたので、後ほど少し近況共有させてください」
「……分かりました」