副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜

荒木さんとの電話を終えて、玉ちゃんを見る。
一緒にご飯でも食べられたら良かったのに、あまり荒木さんを待たせるのも気が引ける。
やはり、タイミングが悪い人なのだろうか。


「荒木さんって、副社長の秘書の人だよね? 何だって?」

「なんか、荒木さんだけ福岡から一旦東京に戻ってきたらしくて、少し話したいって。ごめん、一緒にご飯でも食べられたらと思ってたんだけど」

「ううん、ご飯はまた今度にしよう? 私も荒木さん待たせてると思うと、急いで食べなきゃってなるし」

「うん、ありがとう、玉ちゃん」


帰り支度を始めて、立ち上がる。
ドアを開けて出ようとした時、玉ちゃんに「澪」と声をかけられた。


「庄司さんとか平さんもそうだと思うけど、私も、いつも澪の味方だよ? それに、澪がどんな選択をしても受け入れるし、応援してるから」

「玉ちゃん……本当に同期で良かった。ありがとう。じゃあ、また明日ね」
 

そして、私は荒木さんの車の方向に向かって歩き始めた。
 

***


「荒木さん、お疲れ様です」

「倉田さん、お疲れ様です。俺、またタイミング悪かったですかね? この間、副社長にシメられたばっかりなんですよねぇ……」

 
私の前ではいつも一人称が「私」の荒木さんも、今日は砕けて「俺」になっている。少し心を開いてもらえたのだろうか。
 

「あ、本当にシメられたんですね。確かに今日もちょっとタイミング悪かったかも」

「えっ……マジすか…本当すみません」

「ふふ、いえ、大丈夫ですよ。マンションまで送って頂けて、有り難いです」
 
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