副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「転んだ時に擦り傷と、軽い脳震とうで済んだらしいんだけど……念のため細かく検査を受けるって人伝に聞いて。でも、もしまたお父さんみたいなことがあったらって、不安で……」


つい、声が震えてしまう。

 
「…ごめんなさい、薫さんに、こんな電話して…」

「澪ちゃん、良いんだよ。大変な時に頼ってもらえて嬉しいよ。
 そうだな、僕は脳神経外科専門ではないから詳しいことは言えないけれど、脳震とうを起こして数週間の間に、再度強い衝撃を受けると『セカンドインパクト症候群』になることもあるから、それは命に関わることだね。
 とにかく、ちゃんとお医者さんに見てもらうことが大事だね」


やはり、医者である薫さんは冷静だ。話を聞いていて、少しずつ落ち着きを取り戻してきた。

 
「ありがとう、薫さん。今、福岡の病院にいるみたいだから、何もないことを祈って待とうと思う」

「そうだね、待ってる間が一番辛いかもしれないけど…また何かあったら、いつでも連絡してね。清香さんにも話しておくから」

「うん、ありがとう」

 
そうして、初めての薫さんとの電話は終わった。薫さんのお陰で、少し冷静になることができた。


(また荒木さんからも連絡してくれるって言ってたし、今は目の前のできることを頑張ろう)


こういう時こそ、ちゃんとご飯を食べてお風呂に入って、しっかり寝て、いつも通りの生活を送る。そう、自分に言い聞かせた。

今日で4連勤目だが、明日は遅番勤務、明後日が1日休みの予定だ。明日の準備をして、ベッドに潜り込んだ。

飛鳥さんに買ってもらった、ペンギンのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて寝た。
 
 
***
< 96 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop