許嫁のパトリシアは僕をキープにしたいらしい

2.パトリシア視点

「打つ手なしね……」

 友人の報告を中庭で聞いて、空を見上げる。少し時間を空けてアクアのことを彼の友人に呼び出してもらった。そのうち来るだろう。

 アクアが私に興味がないことくらい知っていた。私の話に全然のってくれないし、私について質問もしてくれない。

『私、いったんあなたと別れて他の人と付き合ってみようと思うの』

 ショックを受けた顔が見たかった。少しくらい私に気があるって思いたかった。冗談よって言うつもりだった。恋人だと思っていたかどうかも確かめたかった。

 彼は、私のことをただの許嫁だとしか思っていなかった。

 その気もない相手に「私たちは恋人なの!」なんて言えなかった。だから、「戻ったら恋人」なんて言い回しをした。せめて恋人だったと、そんな記憶に塗り替えてほしくて。

 彼は、私が離れてもなんとも思ってくれなかった……。

 思い出して、ポロポロと涙がこぼれる。

「パトリシア!?」

 タイミングが悪すぎる。
 ……って、これくらいのタイミングでここに来るようお願いしたのは私ね。

「パトリシアが呼んでるって聞いたんだ」
「ええ」
「どうしたの、悪い奴に引っかかった? しまったな、誰と君が一緒にいたのか何人もに聞いたのに忘れちゃったよ……」

 私に興味がないからよね。
 アクアが今まで見た中で、一番慌てている。さすがの彼も泣いている女の子には弱いらしい。

 少しだけ嬉しい。
 女の子だと認識してもらっていた。

 私は、わざと強めに宣言する。

「アクア。約束通り、恋人に戻るから!」
「え? ああ、そうなんだ。分かった」

 拍子抜けした顔をしている。

 キープ宣言したあげくに戻ってきても受け入れてくれる人なんて、きっとアクアだけだ。私の全部を受け入れてくれるけど……それは関心があまりないからでもある。どっちでもいいと、そう思っているのよね。

 どうでもいいって。

「パトリシア、大丈夫? 変なのに引っかかったんだよね」

 心配してくれることに、嬉しくなる。単に幼馴染だからってだけに決まっているのに。

「違うわよ。あなたがいいって気づいたの」

 本当はずっと前からそう思っていた。でも言えなかった。私だけが好きだなんてかっこ悪いし、それが明らかになるのも怖い。私はアクアの好きなところをいくらでも言えるけど、きっとアクアは私の好きなところなんて一つも言えないから。
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