許嫁のパトリシアは僕をキープにしたいらしい
「僕が? そんなわけないよ。あ、でも変な奴に引っかかったお陰で、そう思うのかな。たぶん気のせいだよ」
「どうでもいいと思ってる相手の興味ない話にニコニコ笑うのって苦痛なのよ」
「うっ……」
「他の人は自分の話ばっかりするの。アクアだけは、私の話を最後までしっかり聞いてくれる。そんなところが好き」
「う、うん……。パトリシアの声も話も好きだし。うまい返しはできないけど」

 え?
 好きって言った?

「えっと、私の好みじゃないものとか勝手に買って感謝しろって押し付けてくる男もうんざりするのよ。アクアはそんなことしないわ」

 自由恋愛が活発化しているこの学園。たまに粉をかけてくる男性はいる。突然自分語りをしたり突然プレゼントを渡してきたり……。

「そりゃ、パトリシアの好みが分からないし。僕が選んでも絶対に趣味が合わないはずだから」
「アクアは買ってってお願いしたものだけを買ってくれるわ」
「それが一番喜んでくれると思うし。で、でも、買ったことあるのって文房具とかだよね。パトリシアがお金忘れたから買ってあげるよって。それ、全然プレゼントでもなんでもないし」

 アクアに買ってもらったものを毎日使いたかっただけ。彼はプレゼントを買いたいとすら思ってくれなかった。私があげたものはどれも使ってくれない。

「押し付けがましくないし、私の話をしっかり聞いてくれるし、散財するような趣味もないし」
「うん。君を楽しませてあげられる趣味がなくてごめんね。僕にはクロスワードを解いたり作ったりすることくらいしか――」
「本当は誘ってほしかった!」
「ええ?」

 一緒にやろうよと言ってもらいたかった。私からお願いしたら、嫌でもいいよって言うに決まってるから。一緒にやりたいって思ってほしかった。

「パトリシアにはつまらないだろうし……」
「一緒にやりたいって思ってほしかった!」
「でも、さっき『どうでもいいと思ってる相手の興味ない話に笑うのは苦痛』って」
「アクアはどうでもよくないの!」

 また涙が零れてしまう。

「僕、そういうの察するのは苦手なんだ……」

 分かってる。

「だからさ、他の男の方がいいだろうなと思って」

 彼が、そっとハンカチを私の顔に押し付けた。

「ごめん」

 謝るのは私の方だ。察してちゃんになっている自覚はある。 

「パトリシアがどうして泣いているのかも、僕には全然分からないんだ。えっと……今までの流れを理解できていないけど、話だけなら聞くよ?」

 どうしてこんなに鈍いのだろう。

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