私の推しは私の推し
2.推しになったきっかけ
ユラの家に到着し、マネージャーと別れる。
一緒に飲まないかと誘ったが「私が可愛いアイドルと一緒に飲むなんて烏滸がましい!」と拒否されてしまった。
「楽しんで!」
なぜか楽しそうに颯爽と去って行くマネージャーに手を振り、車が見えなくなったところで家へと入る。
「久々のユラの家だね」
「せやな。最近は嬉しいことに忙しかったからなぁ」
「忙しいと言いつつ、今日も綺麗よね」
「掃除は趣味みたいなもんやから」
マンションの一室。1人住みにしては広い空間。物をあまり置かないタイプのため、3人が同じ部屋に布団を並べて寝ることも可能。
そのため、お泊まりといえばユラの家。と決まっているのだ。
コンビニで買った缶ビールやチューハイ、安いおつまみ。そしてマネージャーに渡された高そうなワインやおつまみ。
お風呂の後の楽しみだということで適当に決めた順番でお風呂へと入り、マネージャーに渡されたパジャマを身に纏う。
お風呂から出るとすぐにお酒やおつまみをテーブルへと並べて行く。
「飲みかけ食べかけは見た目が悪いとか言ってたから、開封するだけして写真撮ろうね」
それぞれお酒を持ってキメ顔をして。ユラが自撮り棒で複数枚写真を撮る。
「あたしはこれが一番いいと思う」
「待ってそれビールが目立ってるだけじゃん」
「じゃあこれは?」
わいわいとSNSに載せる写真を決めて、投稿。
反応は少ししてからにするとして、2人の興味はすでに私が推している熊ちゃんの話だ。
「まず、わかってると思うけど絶対口外しちゃダメだからね」
「当たり前でしょ。あたしたちはアイドルで、相手は一般人なんだから」
「そういう建前はええから早く」
ワイングラスに並々注ぎながらユラは目をキラキラとさせている。
その隣で缶ビールを一気に飲み干しているココロ。2本目に手を出しながら、私が話し出すのを待っている。
――あれは私がアイドルデビュー目前の日だった。
「ここどこ!? 東京ほんっとよくわかんない!」
1人で同じ場所を行ったり来たり。田舎娘の上京なのだから当たり前なのかもしれないが、方向感覚が掴めずにいた。
しかも道を聞こうにもロクに話を聞いてもらえず途方に暮れていた。
人に酔い、隅で縮こまっていると、頭上から男の人の声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてくれたのが熊ちゃんだったのだ。
私が熊ちゃんと呼ぶ理由は、背が高く筋肉質。全身黒でまとめているコーデで声もとても低かったから。
大丈夫だと私は立ち上がり作り笑いを浮かべた後、絶好の機会だと思い行きたい場所を伝える。
「……ああ、そのビルですか。よかったら一緒に行きましょう。俺は散歩していただけなので」
「い、いいんですか!? ありがとうございます」
深々と頭を下げ、熊ちゃんに目的地まで連れて行ってもらった。私の様子を伺いながらゆっくりと歩いてくれた。しかも時間があるのならと時々休憩を挟んでくれた。
しまいには去り際に飴を私に手渡してくれた。
「すみません飴くらいしかないですが……。面接ですかね? 頑張ってください」
ロクな説明はしていなかったが、ビルの立て看板に最終面接についての説明が記載されており、熊ちゃんは慣れていないのだろう笑顔で言ってくれたのだ。
飴舐めて頭もスッキリ。最後まであの人のために頑張りたいと、勝手に目標にしてアイドルになったことを最後に話して締めた。
「これは惚れるでしょ! ね!?」
「え、そんだけ?」
「え、嘘。惚れないの?」
「惚れっぽいだけな気もするわ」
何杯目のワインか、ユラはドボドボと勢いよく注ぎながら言う。興味が薄れてきているのか、反応はあまりよくない。
「大人にはわからんのだ……」
「うちはマコとそない変わらへんよー」
「年増で悪かったわね〜」
ナッツ類を食べつつチューハイ飲むココロ。缶ビールはすでに飲み干してしまったようだ。
「私もチューハイ飲むんだから残しといてよう!」
何本か自分の方へと寄せ1つ開けて、2人のように一気に飲み干す。あまりお酒に強くはないが、チューハイ程度なら2,3本いける。
その隣ではユラが投稿していた写真の反応を眺めていた。
「おー、結構反応あるやん〜」
「ほんとだ!」
「……ライブ告知より反応良くない?」
コメントや拡散数やお気に入り、それらすべてを上回る数字に少し複雑な気持ちを抱えながら皆でコメントを見ていくことに。
「あー、はいはいはい……。セクハラ紛いなものからパジャマの感想、飲食物の確認さまざまやな〜」
「ココロ推しの人、今から同じ銘柄のビールとおつまみ買うみたいだね」
「同じものを味わえるチャンス! とか言ってるの面白いわね」
「マコ推しはパジャマについての話が多いな〜」
「ユラ推しは介抱されたいとか書いてあるね。微妙に反応ズレてる」
「いつも通りや〜」
たくさんのコメントを眺めつつ、お酒とおつまみはどんどんと消費されていった。
コメントの投稿数が落ち着いてきた頃、ユラはスマートフォンを置き私とココロを見る。
「せっかくやし、他のパジャマも着てみる?」
まだ袖を通していないパジャマ数着。どれも誰が誰用のものか分かりやすくわけられており、マネージャーの几帳面さがよくわかる。
「反応いいしフォロワーも増えたし……売り時かもしれないわね」
100人前後だった数。いつのまにか50人くらい増えている。
アイドル活動をしている姿ではなくパジャマ姿で増えたのは少々残念だが、これを機にライブに興味を持って貰えれば儲け物か……。と私は頷く。きっと2人も似たようなことを思っているだろう。
「せっかくやしトレードしてみるのはどや?」
「ええ!? せっかくマネージャーがそれぞれに似合うパジャマを選んでくれたのに?」
「後でちゃんと本人が着ればええんや。てかあの人ならなんでも喜びそうやない?」
「確かにマネージャーなら喜びそうね。……そうだ、せっかくだしアンケートとりましょ」
「……胸開いてるのとかないよね?」
「マネージャーがエロ売りするわけないでしょ。セクシーとは言うけど、あたしの着てる服、別にあんたたちとあまり変わらないでしょ」
「気にしたことなかったな……でも確かに、色とサイズが違うくらいだったよね」
アンケートを数10分に設定し、その間に飲み食いしたものを片付け、テーブルを片付ける。
その後は時間まで布団を敷いてダラダラ。
結果を見てそれぞれのパジャマをトレードして着て見て、写真に撮って、元々着る予定だった本人に渡して。
そうこうしているといつの間にか夜中の2時を回っていた。
一緒に飲まないかと誘ったが「私が可愛いアイドルと一緒に飲むなんて烏滸がましい!」と拒否されてしまった。
「楽しんで!」
なぜか楽しそうに颯爽と去って行くマネージャーに手を振り、車が見えなくなったところで家へと入る。
「久々のユラの家だね」
「せやな。最近は嬉しいことに忙しかったからなぁ」
「忙しいと言いつつ、今日も綺麗よね」
「掃除は趣味みたいなもんやから」
マンションの一室。1人住みにしては広い空間。物をあまり置かないタイプのため、3人が同じ部屋に布団を並べて寝ることも可能。
そのため、お泊まりといえばユラの家。と決まっているのだ。
コンビニで買った缶ビールやチューハイ、安いおつまみ。そしてマネージャーに渡された高そうなワインやおつまみ。
お風呂の後の楽しみだということで適当に決めた順番でお風呂へと入り、マネージャーに渡されたパジャマを身に纏う。
お風呂から出るとすぐにお酒やおつまみをテーブルへと並べて行く。
「飲みかけ食べかけは見た目が悪いとか言ってたから、開封するだけして写真撮ろうね」
それぞれお酒を持ってキメ顔をして。ユラが自撮り棒で複数枚写真を撮る。
「あたしはこれが一番いいと思う」
「待ってそれビールが目立ってるだけじゃん」
「じゃあこれは?」
わいわいとSNSに載せる写真を決めて、投稿。
反応は少ししてからにするとして、2人の興味はすでに私が推している熊ちゃんの話だ。
「まず、わかってると思うけど絶対口外しちゃダメだからね」
「当たり前でしょ。あたしたちはアイドルで、相手は一般人なんだから」
「そういう建前はええから早く」
ワイングラスに並々注ぎながらユラは目をキラキラとさせている。
その隣で缶ビールを一気に飲み干しているココロ。2本目に手を出しながら、私が話し出すのを待っている。
――あれは私がアイドルデビュー目前の日だった。
「ここどこ!? 東京ほんっとよくわかんない!」
1人で同じ場所を行ったり来たり。田舎娘の上京なのだから当たり前なのかもしれないが、方向感覚が掴めずにいた。
しかも道を聞こうにもロクに話を聞いてもらえず途方に暮れていた。
人に酔い、隅で縮こまっていると、頭上から男の人の声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけてくれたのが熊ちゃんだったのだ。
私が熊ちゃんと呼ぶ理由は、背が高く筋肉質。全身黒でまとめているコーデで声もとても低かったから。
大丈夫だと私は立ち上がり作り笑いを浮かべた後、絶好の機会だと思い行きたい場所を伝える。
「……ああ、そのビルですか。よかったら一緒に行きましょう。俺は散歩していただけなので」
「い、いいんですか!? ありがとうございます」
深々と頭を下げ、熊ちゃんに目的地まで連れて行ってもらった。私の様子を伺いながらゆっくりと歩いてくれた。しかも時間があるのならと時々休憩を挟んでくれた。
しまいには去り際に飴を私に手渡してくれた。
「すみません飴くらいしかないですが……。面接ですかね? 頑張ってください」
ロクな説明はしていなかったが、ビルの立て看板に最終面接についての説明が記載されており、熊ちゃんは慣れていないのだろう笑顔で言ってくれたのだ。
飴舐めて頭もスッキリ。最後まであの人のために頑張りたいと、勝手に目標にしてアイドルになったことを最後に話して締めた。
「これは惚れるでしょ! ね!?」
「え、そんだけ?」
「え、嘘。惚れないの?」
「惚れっぽいだけな気もするわ」
何杯目のワインか、ユラはドボドボと勢いよく注ぎながら言う。興味が薄れてきているのか、反応はあまりよくない。
「大人にはわからんのだ……」
「うちはマコとそない変わらへんよー」
「年増で悪かったわね〜」
ナッツ類を食べつつチューハイ飲むココロ。缶ビールはすでに飲み干してしまったようだ。
「私もチューハイ飲むんだから残しといてよう!」
何本か自分の方へと寄せ1つ開けて、2人のように一気に飲み干す。あまりお酒に強くはないが、チューハイ程度なら2,3本いける。
その隣ではユラが投稿していた写真の反応を眺めていた。
「おー、結構反応あるやん〜」
「ほんとだ!」
「……ライブ告知より反応良くない?」
コメントや拡散数やお気に入り、それらすべてを上回る数字に少し複雑な気持ちを抱えながら皆でコメントを見ていくことに。
「あー、はいはいはい……。セクハラ紛いなものからパジャマの感想、飲食物の確認さまざまやな〜」
「ココロ推しの人、今から同じ銘柄のビールとおつまみ買うみたいだね」
「同じものを味わえるチャンス! とか言ってるの面白いわね」
「マコ推しはパジャマについての話が多いな〜」
「ユラ推しは介抱されたいとか書いてあるね。微妙に反応ズレてる」
「いつも通りや〜」
たくさんのコメントを眺めつつ、お酒とおつまみはどんどんと消費されていった。
コメントの投稿数が落ち着いてきた頃、ユラはスマートフォンを置き私とココロを見る。
「せっかくやし、他のパジャマも着てみる?」
まだ袖を通していないパジャマ数着。どれも誰が誰用のものか分かりやすくわけられており、マネージャーの几帳面さがよくわかる。
「反応いいしフォロワーも増えたし……売り時かもしれないわね」
100人前後だった数。いつのまにか50人くらい増えている。
アイドル活動をしている姿ではなくパジャマ姿で増えたのは少々残念だが、これを機にライブに興味を持って貰えれば儲け物か……。と私は頷く。きっと2人も似たようなことを思っているだろう。
「せっかくやしトレードしてみるのはどや?」
「ええ!? せっかくマネージャーがそれぞれに似合うパジャマを選んでくれたのに?」
「後でちゃんと本人が着ればええんや。てかあの人ならなんでも喜びそうやない?」
「確かにマネージャーなら喜びそうね。……そうだ、せっかくだしアンケートとりましょ」
「……胸開いてるのとかないよね?」
「マネージャーがエロ売りするわけないでしょ。セクシーとは言うけど、あたしの着てる服、別にあんたたちとあまり変わらないでしょ」
「気にしたことなかったな……でも確かに、色とサイズが違うくらいだったよね」
アンケートを数10分に設定し、その間に飲み食いしたものを片付け、テーブルを片付ける。
その後は時間まで布団を敷いてダラダラ。
結果を見てそれぞれのパジャマをトレードして着て見て、写真に撮って、元々着る予定だった本人に渡して。
そうこうしているといつの間にか夜中の2時を回っていた。