私の推しは私の推し
6.プライベートで(後半)
横を通り過ぎる陰に、無意識に目を向けた私は突然見慣れた顔に声をあげてしまった。
しかも熊ちゃんは自分のことかと振り返り私と目が合う。驚いた表情もいいね。なんて呑気なことを思いながらも心臓の音がうるさい。
「どうして俺の名前を知って……というかアイドルのマコさん!?」
「〜〜〜〜!!!」
俺の名前てどう言うこと!? という気持ちと自分の名前を呼ばれた破壊力に口を両手で押さえる。
ニヤニヤ顔を見られるわけにはいかない。これ以上変なことを言ってはいけない。
そうわかっているはずなのに動悸は治らず顔がとてつもなく熱い。
「もしかしてプライベートの時は人見知りなんですかね? 可愛い」
「ひっ」
これではどっちがアイドルか分かったもんじゃない。
「ちょっと失礼」
通路側に座っていた私をココロは押し込むように窓側へと寄せる。
わけもわからずココロを見るが、ココロは熊ちゃんを見てソファを指す。
「ユラの隣空いてるんで、よかったら座ってください」
「え!? それはさすがにまずいでしょう!」
「……なるほどなぁ。真正面も真隣も難しそうやから押し込んだ、と」
「そういうこと。あたしらのことは気にしなくていいですよ。まだまだひよっこアイドルなんで。誰も気にしません」
ほら座り〜。ユラは腕を引っ張り座らせる。
距離を置こうにも席は狭く、私は近すぎて死にそうだと目を逸らし呼吸を整え、体を冷やすために水を飲む。
少しは落ち着いたかな。とチラチラと視界に収める程度に徹し、黙って様子を伺う。
冷静になってからわかるが、今周りから危ない人と思われてそうだ。
「熊ちゃん何頼むん?」
「俺はこの坦々麺を……」
離してもらえそうも無いと判断したのか、熊ちゃんはメニュー表を指差して言う。
「店員さーん。激辛坦々麺セット1つ! あと、日替わりデザート4つくださーい」
「ユラさん……ありがとうございます」
居心地が悪いのだろうか、照れているのだろうか熊ちゃんは少し顔を赤くして俯いている。
沈黙が続く中、ココロは気にすることなく熊ちゃん見た。
「あたしら貴方を勝手に熊ちゃんって読んでるんだけど、名前に熊でもつくんです?」
「あ、はい。熊谷と申します」
カバンから取り出した名刺をココロに手渡す熊ちゃ……熊谷さん。
「熊谷衛、ねえ」
名刺を覗き見してみると、熊谷さんはシステムエンジニアをされているらしい。
この見た目でパソコン仕事なんだ……ときっと誰もが思うだろう。
「なんか名前を呼んでもらえるイベントとかありましたっけ?」
「あー、違う違う。見た目でこの子がつけたんよ」
「マコさんに……?」
視線を向けられ逃げ出したい気持ちが込み上がる。だが、反応を返さないのは失礼なので言葉は発さず首を縦に振った。
「それは……光栄です」
「せっかくやし熊ちゃんとの出会いも話しとこか」
スラスラと私から聞いた話をほとんどそのまま語るユラ。それを聞いている熊谷さんは先ほどよりさらに顔を赤くして、まるで少し前の私のように口元を押さえている。
「あの時のこと、覚えていたんですね……! しかもそこからずっと熊ちゃんという愛称で呼ばれていただなんて」
俺、今日が命日かもしれません。と私が言いそうな言葉を呟いている。
「……で、でも熊谷さんはココロ推しなんじゃ?」
聞くつもりはなかったのに出てしまった言葉に、私は青ざめる。ここで本当にココロ推しだとしたら、私はこの窓を割って逃げ出したい。
「あ、えっと……ご本人様達の前で言うのは大変恐縮ですが、俺はマコさん推しです」
ええええええ!? と大きな声を出てしまったかと思いきや、私は声を失っていて声は出ておらず、全身から汗が出るほどに熱くなり息苦しくなってきた。
「マコ、マコ落ち着いて。ほら、深呼吸」
「うう、ありがとう」
「……と、いうことはココロ推しの誰かのために買ってたってことやな?」
「はい。弟がココロさんの推しでして。弟は人混みが苦手なんです。座って鑑賞している時はいいんですけどね」
お金は弟のなんですけどね。と付け加えつつ、熊谷さんは水を一口。
また沈黙になったが、誰かが口を開く前にお店の人が坦々麺を置く。
「デザートは食後にしますか?」
「はい。食後でお願いします」
店員さんに質問され、それに丁寧に返し感謝の言葉を述べ会釈する熊谷さん。すごく良い。
熊谷さんは私の手元にある真っ赤なスープを見て、私に質問をした。
「マコさん、もしかして辛いもの好きなんですか?」
「は、はい。ぶっちゃけてしまうと甘いものより好き、です……」
イメージ違うって言われたらどうしようとドキドキしていると、私の考えとは裏腹に熊谷さんは目を輝かせる。
「俺も辛いものが好きなんです。ここには何度か来てて……今度はマコさんと同じ火鍋にしようかなと」
「わ、私も今度は坦々麺頼もうかなと……」
「せやったら、今度2人に食べに来れば解決やな」
「ちょ、何言ってるのユラ!」
一緒に来られるのは嬉しいが、心の準備もできていないし、2人きりなんてことになればまともな会話ができそうもない。
「正直、差し出がましいお願いだとは思いますが、マコさんがよければ一緒に来たいです」
「く、熊谷さん……!」
「熊ちゃんでいいですよ」
「さすがに、ちょっと」
そんな話をしながら、メインを食べデザートを食べ、少しは私も熊ちゃんと話せるようになった。
まぁ、そのせいというか、おかげでご飯を食べに行ったり遊びに行き始めたのはまた別の話。
しかも熊ちゃんは自分のことかと振り返り私と目が合う。驚いた表情もいいね。なんて呑気なことを思いながらも心臓の音がうるさい。
「どうして俺の名前を知って……というかアイドルのマコさん!?」
「〜〜〜〜!!!」
俺の名前てどう言うこと!? という気持ちと自分の名前を呼ばれた破壊力に口を両手で押さえる。
ニヤニヤ顔を見られるわけにはいかない。これ以上変なことを言ってはいけない。
そうわかっているはずなのに動悸は治らず顔がとてつもなく熱い。
「もしかしてプライベートの時は人見知りなんですかね? 可愛い」
「ひっ」
これではどっちがアイドルか分かったもんじゃない。
「ちょっと失礼」
通路側に座っていた私をココロは押し込むように窓側へと寄せる。
わけもわからずココロを見るが、ココロは熊ちゃんを見てソファを指す。
「ユラの隣空いてるんで、よかったら座ってください」
「え!? それはさすがにまずいでしょう!」
「……なるほどなぁ。真正面も真隣も難しそうやから押し込んだ、と」
「そういうこと。あたしらのことは気にしなくていいですよ。まだまだひよっこアイドルなんで。誰も気にしません」
ほら座り〜。ユラは腕を引っ張り座らせる。
距離を置こうにも席は狭く、私は近すぎて死にそうだと目を逸らし呼吸を整え、体を冷やすために水を飲む。
少しは落ち着いたかな。とチラチラと視界に収める程度に徹し、黙って様子を伺う。
冷静になってからわかるが、今周りから危ない人と思われてそうだ。
「熊ちゃん何頼むん?」
「俺はこの坦々麺を……」
離してもらえそうも無いと判断したのか、熊ちゃんはメニュー表を指差して言う。
「店員さーん。激辛坦々麺セット1つ! あと、日替わりデザート4つくださーい」
「ユラさん……ありがとうございます」
居心地が悪いのだろうか、照れているのだろうか熊ちゃんは少し顔を赤くして俯いている。
沈黙が続く中、ココロは気にすることなく熊ちゃん見た。
「あたしら貴方を勝手に熊ちゃんって読んでるんだけど、名前に熊でもつくんです?」
「あ、はい。熊谷と申します」
カバンから取り出した名刺をココロに手渡す熊ちゃ……熊谷さん。
「熊谷衛、ねえ」
名刺を覗き見してみると、熊谷さんはシステムエンジニアをされているらしい。
この見た目でパソコン仕事なんだ……ときっと誰もが思うだろう。
「なんか名前を呼んでもらえるイベントとかありましたっけ?」
「あー、違う違う。見た目でこの子がつけたんよ」
「マコさんに……?」
視線を向けられ逃げ出したい気持ちが込み上がる。だが、反応を返さないのは失礼なので言葉は発さず首を縦に振った。
「それは……光栄です」
「せっかくやし熊ちゃんとの出会いも話しとこか」
スラスラと私から聞いた話をほとんどそのまま語るユラ。それを聞いている熊谷さんは先ほどよりさらに顔を赤くして、まるで少し前の私のように口元を押さえている。
「あの時のこと、覚えていたんですね……! しかもそこからずっと熊ちゃんという愛称で呼ばれていただなんて」
俺、今日が命日かもしれません。と私が言いそうな言葉を呟いている。
「……で、でも熊谷さんはココロ推しなんじゃ?」
聞くつもりはなかったのに出てしまった言葉に、私は青ざめる。ここで本当にココロ推しだとしたら、私はこの窓を割って逃げ出したい。
「あ、えっと……ご本人様達の前で言うのは大変恐縮ですが、俺はマコさん推しです」
ええええええ!? と大きな声を出てしまったかと思いきや、私は声を失っていて声は出ておらず、全身から汗が出るほどに熱くなり息苦しくなってきた。
「マコ、マコ落ち着いて。ほら、深呼吸」
「うう、ありがとう」
「……と、いうことはココロ推しの誰かのために買ってたってことやな?」
「はい。弟がココロさんの推しでして。弟は人混みが苦手なんです。座って鑑賞している時はいいんですけどね」
お金は弟のなんですけどね。と付け加えつつ、熊谷さんは水を一口。
また沈黙になったが、誰かが口を開く前にお店の人が坦々麺を置く。
「デザートは食後にしますか?」
「はい。食後でお願いします」
店員さんに質問され、それに丁寧に返し感謝の言葉を述べ会釈する熊谷さん。すごく良い。
熊谷さんは私の手元にある真っ赤なスープを見て、私に質問をした。
「マコさん、もしかして辛いもの好きなんですか?」
「は、はい。ぶっちゃけてしまうと甘いものより好き、です……」
イメージ違うって言われたらどうしようとドキドキしていると、私の考えとは裏腹に熊谷さんは目を輝かせる。
「俺も辛いものが好きなんです。ここには何度か来てて……今度はマコさんと同じ火鍋にしようかなと」
「わ、私も今度は坦々麺頼もうかなと……」
「せやったら、今度2人に食べに来れば解決やな」
「ちょ、何言ってるのユラ!」
一緒に来られるのは嬉しいが、心の準備もできていないし、2人きりなんてことになればまともな会話ができそうもない。
「正直、差し出がましいお願いだとは思いますが、マコさんがよければ一緒に来たいです」
「く、熊谷さん……!」
「熊ちゃんでいいですよ」
「さすがに、ちょっと」
そんな話をしながら、メインを食べデザートを食べ、少しは私も熊ちゃんと話せるようになった。
まぁ、そのせいというか、おかげでご飯を食べに行ったり遊びに行き始めたのはまた別の話。