私の推しは私の推し
8.私の推しは私の推し
推しに女性として好きと言われてから、私は見違えるようにアイドル活動が上手く行くようになった。
ココロとユラからも好評で、3人揃って人気アイドルへと上り詰めた。
歌を披露するドームも大きくなり、満席が当たり前になってきてさすがの私も熊ちゃんを見つけ出すのは難しくなってきていた。
そんなある日のこと。
ドアを勢いよく開け放ち、雑誌を片手に大股で入ってきたマネージャー。
「大変です! マコさんと熊谷さんがデートしとるところ、暴露系雑誌に載ってます!」
「ほんま? 見たい見たい」
「ついに来たのね」
「そんなのに載っちゃうなんて、売れたねぇ私」
マネージャーが開いていたページを覗き込むユラ。
棒付きキャンディーを咥えたまま美容雑誌を読んでいるココロ。
そして熊ちゃんとやりとり真っ最中だった私、マコ。
「当事者がすごく落ち着いている!?」
私たちの様子に驚きを隠せないマネージャーは雑誌をもう一度見ている。
見間違いとでも思ったのだろう。だが、やはり私と熊ちゃんだと確認した後、何か言いたげな表情で私を見ていた。
「わざとだよ、マネージャー」
「ど、どう言うことですか?」
「今日の公演で話すからファンと一緒に聞いてて」
マネージャーを置いて私たち3人はステージへと歩き出す。
ここで私はファンの皆に告白するつもりだ。
思い切ったことだし、非難される可能性もある。
けれど、ココロとユラに許可はもらった。
熊ちゃんにも「頑張って」とエールを貰った。
ならば私は実行するのみ。
「みんな〜! 今日は来てくれてありがとう!」
歌って踊って、最高の自分を出し切る。
汗だってキラキラ輝く私の最高の化粧だ。
アンコールも終えて、私はマイクを握りしめる。
「最後まで聴いてくれてありがとう! ここからはちょっとデリケートな話。もちろん強制じゃないので、聞く必要なさそうだったら席を立っても構いません」
席を立つ人々を見送りながら、困惑しながらも残ってくれるファンの人達を見て、少し安堵する。
特に初期から応援してくれる人たちが多く残っているのが、また私を安心させてくれた。
「残ってくださった方々、ありがとうございます。……えっと、私、マコは好きな人がいます」
ざわつく会場。慌てて席から立ち上がる人。
様々な反応が見えるが、まだたくさんの人が座ってくれている。一度深呼吸をした後、話を続ける。
「もう雑誌を見た人は知ってると思うのですが、その方とお付き合いを考えています。また、結婚も考えています。お付き合いや結婚をしても、アイドル活動は辞めるつもりはありません。その点はご安心ください」
顔を曇らせていた人もアイドル活動は辞めないことに安心したのか、嬉しそうにしていた。もちろん全員が恋愛や結婚を良しとしていないことも理解している。
「アイドルって恋愛厳禁なとこあると思うんやけど、マコはあの人のおかげでここまできたんや」
「だからあたし達3人は、ここに宣言したいと思う」
2人と手を繋いで思いっきり上にあげて言う。
「恋人がいても、結婚しても、私達を推してくれるファンが大好きです!」
歓声と罵倒が飛び交う中、3人で笑顔で手を振りながらステージから降りたのだった。
◇
「引退宣言されるかと思ってヒヤヒヤしましたなぁ」
「俺もヒヤヒヤした! ……正直、推しに恋人できたり結婚されたら悲しくて1週間、いや1ヶ月は引きこもりそう」
「わかりますぞぉー! 僕は家で暴れまくりそうです」
「暴れるのはやめなよ。危ないよ」
おでこさんと弟は、自分の推しがまさか恋愛や結婚をするとも思っていないようで、意外と元気だった。
「アイドルと一般人の恋愛、良いですなぁ。夢ですなぁ」
自分のことかと思いドキッとしたが、おでこさんは空を見上げて大きく息を吐いている。
「え、てっきり"そんなの言語道断!"て言うのかと思った」
突然おでこさんは周りに聞こえないよう弟に小声で話し始める。
と言っても、後ろからついていっている俺にはすべて丸聞こえだが。
「いやいや、よく考えてみてください。僕たち、初期からいるんですよ? 顔も覚えられておりますし、SNSのアカウントも特定されている。なら有り得なくは……ないでしょう? しかもコロさんのお兄さんなんて、公認サポーターですし、ねぇ?」
「力持ちではないけど、他で使ってもらえる可能性はなくもない、と?」
「お兄さんの紹介で、お手伝いをさせていただける可能性も無きにしも非ず」
チラリとこちらを見る2人に思わず顔が歪む。
「機会があれば、ですね……」
「ありがたき幸せ」
「ありがとう兄貴!」
いつまでも2人にマコと付き合うことを言い出せなくなった熊谷だった。
ココロとユラからも好評で、3人揃って人気アイドルへと上り詰めた。
歌を披露するドームも大きくなり、満席が当たり前になってきてさすがの私も熊ちゃんを見つけ出すのは難しくなってきていた。
そんなある日のこと。
ドアを勢いよく開け放ち、雑誌を片手に大股で入ってきたマネージャー。
「大変です! マコさんと熊谷さんがデートしとるところ、暴露系雑誌に載ってます!」
「ほんま? 見たい見たい」
「ついに来たのね」
「そんなのに載っちゃうなんて、売れたねぇ私」
マネージャーが開いていたページを覗き込むユラ。
棒付きキャンディーを咥えたまま美容雑誌を読んでいるココロ。
そして熊ちゃんとやりとり真っ最中だった私、マコ。
「当事者がすごく落ち着いている!?」
私たちの様子に驚きを隠せないマネージャーは雑誌をもう一度見ている。
見間違いとでも思ったのだろう。だが、やはり私と熊ちゃんだと確認した後、何か言いたげな表情で私を見ていた。
「わざとだよ、マネージャー」
「ど、どう言うことですか?」
「今日の公演で話すからファンと一緒に聞いてて」
マネージャーを置いて私たち3人はステージへと歩き出す。
ここで私はファンの皆に告白するつもりだ。
思い切ったことだし、非難される可能性もある。
けれど、ココロとユラに許可はもらった。
熊ちゃんにも「頑張って」とエールを貰った。
ならば私は実行するのみ。
「みんな〜! 今日は来てくれてありがとう!」
歌って踊って、最高の自分を出し切る。
汗だってキラキラ輝く私の最高の化粧だ。
アンコールも終えて、私はマイクを握りしめる。
「最後まで聴いてくれてありがとう! ここからはちょっとデリケートな話。もちろん強制じゃないので、聞く必要なさそうだったら席を立っても構いません」
席を立つ人々を見送りながら、困惑しながらも残ってくれるファンの人達を見て、少し安堵する。
特に初期から応援してくれる人たちが多く残っているのが、また私を安心させてくれた。
「残ってくださった方々、ありがとうございます。……えっと、私、マコは好きな人がいます」
ざわつく会場。慌てて席から立ち上がる人。
様々な反応が見えるが、まだたくさんの人が座ってくれている。一度深呼吸をした後、話を続ける。
「もう雑誌を見た人は知ってると思うのですが、その方とお付き合いを考えています。また、結婚も考えています。お付き合いや結婚をしても、アイドル活動は辞めるつもりはありません。その点はご安心ください」
顔を曇らせていた人もアイドル活動は辞めないことに安心したのか、嬉しそうにしていた。もちろん全員が恋愛や結婚を良しとしていないことも理解している。
「アイドルって恋愛厳禁なとこあると思うんやけど、マコはあの人のおかげでここまできたんや」
「だからあたし達3人は、ここに宣言したいと思う」
2人と手を繋いで思いっきり上にあげて言う。
「恋人がいても、結婚しても、私達を推してくれるファンが大好きです!」
歓声と罵倒が飛び交う中、3人で笑顔で手を振りながらステージから降りたのだった。
◇
「引退宣言されるかと思ってヒヤヒヤしましたなぁ」
「俺もヒヤヒヤした! ……正直、推しに恋人できたり結婚されたら悲しくて1週間、いや1ヶ月は引きこもりそう」
「わかりますぞぉー! 僕は家で暴れまくりそうです」
「暴れるのはやめなよ。危ないよ」
おでこさんと弟は、自分の推しがまさか恋愛や結婚をするとも思っていないようで、意外と元気だった。
「アイドルと一般人の恋愛、良いですなぁ。夢ですなぁ」
自分のことかと思いドキッとしたが、おでこさんは空を見上げて大きく息を吐いている。
「え、てっきり"そんなの言語道断!"て言うのかと思った」
突然おでこさんは周りに聞こえないよう弟に小声で話し始める。
と言っても、後ろからついていっている俺にはすべて丸聞こえだが。
「いやいや、よく考えてみてください。僕たち、初期からいるんですよ? 顔も覚えられておりますし、SNSのアカウントも特定されている。なら有り得なくは……ないでしょう? しかもコロさんのお兄さんなんて、公認サポーターですし、ねぇ?」
「力持ちではないけど、他で使ってもらえる可能性はなくもない、と?」
「お兄さんの紹介で、お手伝いをさせていただける可能性も無きにしも非ず」
チラリとこちらを見る2人に思わず顔が歪む。
「機会があれば、ですね……」
「ありがたき幸せ」
「ありがとう兄貴!」
いつまでも2人にマコと付き合うことを言い出せなくなった熊谷だった。