激モテ生徒会長の暗証番号は子猿な私の誕生日と一緒~こんな偶然ってあるだなぁ、と思っていたらなんだか溺愛されてるような?~
第3話 偽装恋人で……イチャイチャ!?



〇中庭(昼休み)



るるを真ん中に、中庭でベンチに座っている政近と仁礼とるる。

それじゃあとはふたりで……とお見合いの席の仲人のように立ち去ろうとした仁礼の袖を、ハシッ、とるるが掴む。



るる「浅美くんも一緒に食べよ」



るる(男子とふたりきりでお昼なんて、食べたことない。緊張して味がわからなくなっちゃうよ……)



仁礼「え、俺も?」

るる「お願い。お弁当のおかず好きなのあげるから」



そんなふたりのやり取りを、少し不機嫌そうな表情で政近が見ている。

るるがお弁当を、政近と仁礼はパンを食べ始めた。



仁礼「るんるんのお弁当ちっこくて可愛いね。自分で作ってんの?」

るる「うん。簡単なものしか作れないけど。浅美くんどれが食べたい?」

仁礼「じゃ、卵焼き」



卵焼きを仁礼が指でつまみパクと食べる。



仁礼「るんるんの卵焼きはだし巻きなんだね。俺はだんぜん甘い方が好きだけどな~」

るる「そっか、今度甘い卵焼き作ってこようか?」

仁礼「え、いいの?」

政近「浅美、甘い卵焼きなら俺が作ってやる。生徒会の仕事でも迷惑かけてるのにこれ以上小笹さんの手を煩わせるな」



不機嫌そうに政近が告げた。

晴れているのに激しい吹雪に襲われているような冷たさを感じ、るるは状況を変えるために会話の糸口を探す。

何を話そうかあれこれ考えながら発したせいか、政近に話しかけたるるの声は少し小さくなってしまった。



政近「ん? ごめん聞こえなかった」



そういいながら、内緒話を促すように顔を寄せた政近との距離が近くなり、るるの胸がドキッと高鳴った。

遠巻きに見ていた女生徒たちから、キャー、と声が上がる。



るる「あの、ね。聖道くんは卵焼き甘いのとだし巻きどっちが好き?」

政近「だし巻きの方が好き」

るる「これ、だし巻きだから食べる?」

政近「いいのか?」



吹雪が消え、心なしか花が咲いたように政近の表情が輝いた。



政近「美味しい」

仁礼「お、なんか恋人同士っぽくていいね。今度からるんるんが政近のお弁当も作ってくれば」

政近「それは俺にしかメリットがないだろう? 小笹さんには負担でしかない」

るる「お弁当がひとつ増えるくらい大丈夫だよ。あ、もちろん聖道くんがよければ、だけど」

政近「その提案はありがたいが……」



口元に手を近づけて、政近は何かを考えている。



政近「では、交互に作るというのはどうだろう。作れない日は無理せずにお互い購買で買うことにして」

るる「うん、わかった」



その後も他愛のない話をして、昼休みの時間が過ぎていく。



るる(生徒会以外で聖道くんと話したことなかったけど、けっこう話しやすいんだな……)



仁礼「それじゃぁるんるん、また放課後にねー」

るる「うん、生徒会室で」



手を振るるるに向かって、政近が軽く頷くように小さく頭を下げている。





〇生徒会室ドアの前(放課後)



るる(ゴミ捨て当番の子を手伝ってたら遅くなっちゃった……)



走ってきたるるは、昨日美人な三年女子が政近に告白するのを見た廊下の曲がり角のところで一度止まった。

るるの息が少しだけ乱れている。



るる(深呼吸してから、ゆっくり歩こう)



生徒会室の扉へ手を伸ばしたところで、中から声が聞こえてきて手が止まる。



政近「……ずっと、好きだったんだ」



るる(聖道くんの声? ぇ、好きだったって……?)



仁礼「マジで?」



るる(一緒にいるの、浅美くん? 聖道くんが、浅美くんに告白してる?)



政近「俺の気持ち聞いて、どう思った?」

仁礼「あ、ああ……ふざけてるとかじゃなくて、真剣なんだよな。かなりビビったけど……」



るる(浅美くん、なんて答えるんだろう)



気になったるるは無意識に耳を壁に近付けるように身体を傾けた。

その拍子に手に持っていたノートパソコン(ケース入り)が手から滑り落ちていく。

床に落ちた瞬間、ゴト、と音がした。



るる(ああ、パソコンがっ、ケースに入れてたけど大丈夫かなっ)



るるがパソコンを拾おうと座りこんだ時、生徒会室の扉が開いた。



政近「……いつからいた?」

るる「掃除当番を手伝ってたら遅くなっちゃって、走ってきて今さっき着いたとこ」



るる(『今さっき』の範囲が広いけど、嘘ではないよね)



るる「慌ててたからパソコン落としちゃった」

政近「大丈夫?」

るる「そうだね、データ大丈夫かなぁ」

政近「いや、小笹さんが。怪我とかしてない?」



るるを心配して手を差し伸べ、立ち上がるのを支えてくれた政近に、るるは胸がときめいてしまう。



るる(どうしてだろう。胸が痛い)





○生徒会室



ノートパソコンに向かって作業をしながら、るるは考え事をしている。



るる(聖道くんは浅美くんのことが好きなのかぁ……そう考えると思い当たることがあるなぁ……)



(回想)

「なに言ってんだ浅美。小笹さん、と、付き合えばいいなんて」と言って動揺している第一話の政近。

(回想終了)



るる(好きな人から、他の人と付き合え、なんて言われたら動揺するよね……)



(回想)

「恋愛……そういう話、俺とはしたことがないのに」と言いながら心なしかつらそうな表情をしている第一話の政近。

(回想終了)



るる(聖道くんでさえ浅美くんとしたことがない話を、私がしてたから嫌だったんだ……)



(回想)

「浅美、甘い卵焼きなら俺が作ってやる」と言った昼休みの政近。

(回想終了)



るる(あれは独占欲から出た言葉だったんだろうなぁ……)



そこまで考えてるるは、ハッ、と気づいた。



るる(いけないいけない。今は生徒会の仕事に集中しないと)



パソコンに向かって作業に集中しているるる。

時間が経過していく。



政近「小笹さん」



話しかけられたことに気づいて、るるの集中モードが終わる。



政近「そろそろ終わりにしよう。小笹さんのおかげで予想よりも早く進んだから助かったよ」

仁礼「やったー。それじゃふたりとも、また月曜日に」

政近「いや、浅美は明日買い出しに付き合ってくれ。文化祭に必要な物で、現物を確認したいものがあるから」



仁礼が、えーっ、と不満そうな顔をした。



仁礼「それならるんるんと行けばいいじゃん。誰かに会うかもしれないし、イチャイチャしてるとこ見せてきなよ」

政近「小笹さんには会計の件で放課後残ってもらっている。そのうえ貴重な休日まで使わせるのは申し訳ない」

仁礼「えーっ、じゃぁ書記の磯田んと行きなよ。俺、用事あるもん」

政近「磯田は明日塾の模試があるはずだ。浅美の用事はデートだからキャンセルできるだろう?」



『把握済み』と政近に表示されている。



るる(聖道くんは浅美くんのことが好きだから一緒に出かけたいのかも……)



仁礼「やだよデートしたいし。それに休日に男ふたりで買い物してるとこ見られたら、ますます噂になるじゃーん」

政近「別に噂くらい構わないだろ、気にしなければいいだけだ」



るる(でも浅美くんは、男ふたりだと行きたくない……)



仁礼「だめだめ。男は『恋愛対象外』なのに、これ以上誤解されたら女の子が寄ってこなくなっちゃうって」



『恋愛対象外』の言葉を聞いたるるの頭に中学時代の光景が蘇る。



(回想)中学校体育倉庫そば(部活後)

初恋の男子テツ「いやいや無理だって。子猿は恋愛対象外だろー」

そうだよなー、と笑う声

(回想終了)



るるは胸がキュッと切なくなった。



るる(『恋愛対象外』って言われてつらい気持ちは、よくわかる……)



ふたりが議論しているところへ、るるがおずおずと小さく手をあげた。



るる「あの……私、明日ヒマなので、三人で行こう?」

仁礼「それなら政近とるんるんのふたりでよくない?」

政近「荷物が重くなる可能性もあるから小笹さんだと大変かもしれない、浅美にも来てほしい」

るる「それに会計の浅美くんの方が予算のことよく分かってるし、浅美くんが来てくれた方が助かる」



しょうがないなー、と言いながら仁礼がしぶしぶ承知している。



るる(よかったー)



政近「小笹さんには助けられてばかりだ」



ホッとしているるるのそばに政近が立ち、気配に気づいたるるが見上げる。



政近「いつもありがとう」



他の人には見せたことがない優しい笑みを政近に向けられて、るるの胸がキュンと音を立てた。




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