12歳の女子高生
第1話
「転校生を紹介します」
17歳の男の子は、12歳の男の子と全然違うみたいだ___
「佐藤ひまりさんは、黎明高校から転校してきました」
ひまりを紹介する担任教師。
彼女はその横に立って、教壇から教室を見渡していた。
「非常に優秀な生徒さんだったのですが、先日交通事故にあってしまい____」
先生が自分の紹介をしてくれているというのに、どこか上の空のひまり。
きゅっと唇を結んでクラスメイトたちを凝視していた。
「(男の子たちがみんなシャツとネクタイをしてる…本当に大人みたいだ……)」
ふとある男の子に目が行く。
彼の袖からはひまりの腕とは比べ物にならないほど、がっちりとした腕がのぞいていた。
「(たった5歳しか違わないのに…こんなに違うの?)」
ついぼーっと見つめていると、その男の子が怪しがるように首を傾げた。
ひまりのガン見に気づいたようだった。
「えー、佐藤さんは頭を強くぶつけて、記憶喪失になってしまったそうです」
「えぇ…」
「記憶喪失……?」
「こっわ…」
教室がザワザワし出す。
その男の子も、後ろを振り返って周りの男子らと話し出す。
その背中にはうっすら筋肉の筋が見えていた。
「(大きな、背中……)」
「佐藤さん、」
「はいっ、」
自分の世界に入っていたひまりが、はっと我に返る。
「ちょっと自己紹介してもらっていい?」
「あっ、はい!!!!!」
無駄に大きな返事。
教室前方に座る生徒がビクッと肩を揺らした。
変に大きな返事をしたくせに、なぜか恥ずかしそうに1歩前に出るひまり。
動きがまるでチグハグだ。
「さ、佐藤ひまりです…!
しゅ、趣味はぷっくりシールを集めることで、
特技は一輪車に乗ることです!」
ひまりの言葉を聞いて、教室がざわつく。
「お、おい…」
「ぷっくりシールって…そんな、小学生みたいな…」
「わ、私は、1か月前の交通事故で5年間の記憶が消えてしまいました…!
つまり……、
身体は女子高生でも、中身は12歳の小学生なんです…!」
彼女、佐藤ひまりは、優秀な高校生だった。
父は大手証券会社のサラリーマンで、母は広告代理店のデザイナー。
エリートの家に生まれたひまりは、大事な一人娘として、蝶よ花よと育てられてきた。
両親の秀才ぶりはひまりにも受け継がれ、小学6年生のときに超名門、私立黎明学園中等部に見事合格。
エスカレーター式で黎明高校に入学し、順調に大学受験への道を駆け抜けていた。
しかし、1か月前に交通事故に巻き込まれ、頭部を強打。
幸い命に別状は無かったものの、「逆行性健忘」、つまり記憶喪失になってしまった。
5年間分の記憶は無くなってしまったものの、12歳までの記憶はしっかり残っているため、日常生活は普通に送れている。
しかし、問題は大学受験だった。
ひまりの両親は、彼女が勉強に着いていけなくなることを恐れ、黎明高校からここ、大山学院大学付属高校に転入させた。
この高校であればエスカレーター式で大学に進学できるため、万が一記憶が戻らなくても路頭に迷うことは無い。
記憶がいつ戻るのか、そしてどうしたら戻るのかは医者もわからないが、
ひとつ言えるのは、
「無理に記憶を戻させないこと」。
ストレスをかけることで、かえって症状が悪化する可能性があるからである。
かくして、エリート育ちだった佐藤ひまりは、
身体は17歳、心は12歳の生活を送ることになったのであった_______
「ちょっと男子!!!」
っ、!
突然の大声にひまりの体がびくっと反応する。
「それ、くさいんだけど!!」
後ろを振り返ると、チョコレートのような茶髪をくるっと巻いた女の子が腕を組んでいた。
名札には「吉田くらら」と書かれている。
元々美人なのも相まって、男子を睨むその顔はものすごい迫力だった。
そのくららの目線の先には、カップラーメンを食べている男子が。
匂いを指摘されたことが不服とばかりに、口をいっぱいにしながら怒鳴り返した。
「うっせー!お前らの香水の方が臭ぇよ!」
「(け、喧嘩してる……?)」
自己紹介をしたホームルームが終わり、席に座っていたひまり。
10分間の休み時間で、突如喧嘩が勃発していた。
小学生の喧嘩とは比べ物にならない迫力に、ぽかんとした表情を浮かべている。
「はぁ!?男子たちの汗の方が臭いわ!」
「そうだよ!体育の後はいっっつも充満してて本当にしんどいんだからね!」
「うわー、キーキー声うるさー!!」
「またヒステリー起こしてるー」
「そーやって何でもかんでもヒステリックって言えばいいと思って」
「思考力弱すぎー!」
最初は2人から始まったはずの喧嘩が、いつの間にかどんどん人を巻き込んでいき、気づいたときには男子vs女子の全面戦争が始まっていた。
「(えっ、ちょっ、ちょ……)」
信じられない状況に口をぱくぱくさせるひまり。
実はひまりは、新しく始まる高校生活を心から楽しみにしていた。
ドラマで見た高校生は、男女仲良く文化祭などの行事に取り組み、借り物競争でカップルが生まれ、ちょっと大人なこともしていた(キス)。
しかし今のこの状況は……
「(ぜんっぜん……アオハルじゃない……、、、)」
「だいたい、教室で何食べようが俺らの勝手だろ!」
「へー。この教室をお前ら男子だけの場所だと思ってるわけ?さすが脳筋は違うねー」
売り言葉に買い言葉。
喧嘩はどんどん激しくなっていく。
いつの間にか教室は男子サイドと女子サイドに分かれていて、ひまりだけぽつんとひとり、真ん中の席に座っていた。
「(ど、どうしよう……喧嘩を止めないと…っ)」
キョロキョロと首を振るひまり。
ふと、さっきの男の子と目が合った。
自己紹介のときに凝視してしまっていた男の子だ。
名札には「藤堂和樹(ふじどう かずき)」と書いてある。
「…」
彼も他の男子らと同様、女子たちを不服そうに眺めている。
加勢こそしないものの、喧嘩を止めてくれそうには見えなかった。
「(わ、私が何とかしなきゃ……。
こんな喧嘩してたら、みんなのせっかくのアオハルがもったいないよ…!)」
元々正義感が強かったひまり。
精神年齢が小学生に戻って、よりその傾向が強く出てしまっていた。
空気を読む力が劣るとともに……
「ま、窓を、開けちゃダメですかっ!!!!!」
17歳の男の子は、12歳の男の子と全然違うみたいだ___
「佐藤ひまりさんは、黎明高校から転校してきました」
ひまりを紹介する担任教師。
彼女はその横に立って、教壇から教室を見渡していた。
「非常に優秀な生徒さんだったのですが、先日交通事故にあってしまい____」
先生が自分の紹介をしてくれているというのに、どこか上の空のひまり。
きゅっと唇を結んでクラスメイトたちを凝視していた。
「(男の子たちがみんなシャツとネクタイをしてる…本当に大人みたいだ……)」
ふとある男の子に目が行く。
彼の袖からはひまりの腕とは比べ物にならないほど、がっちりとした腕がのぞいていた。
「(たった5歳しか違わないのに…こんなに違うの?)」
ついぼーっと見つめていると、その男の子が怪しがるように首を傾げた。
ひまりのガン見に気づいたようだった。
「えー、佐藤さんは頭を強くぶつけて、記憶喪失になってしまったそうです」
「えぇ…」
「記憶喪失……?」
「こっわ…」
教室がザワザワし出す。
その男の子も、後ろを振り返って周りの男子らと話し出す。
その背中にはうっすら筋肉の筋が見えていた。
「(大きな、背中……)」
「佐藤さん、」
「はいっ、」
自分の世界に入っていたひまりが、はっと我に返る。
「ちょっと自己紹介してもらっていい?」
「あっ、はい!!!!!」
無駄に大きな返事。
教室前方に座る生徒がビクッと肩を揺らした。
変に大きな返事をしたくせに、なぜか恥ずかしそうに1歩前に出るひまり。
動きがまるでチグハグだ。
「さ、佐藤ひまりです…!
しゅ、趣味はぷっくりシールを集めることで、
特技は一輪車に乗ることです!」
ひまりの言葉を聞いて、教室がざわつく。
「お、おい…」
「ぷっくりシールって…そんな、小学生みたいな…」
「わ、私は、1か月前の交通事故で5年間の記憶が消えてしまいました…!
つまり……、
身体は女子高生でも、中身は12歳の小学生なんです…!」
彼女、佐藤ひまりは、優秀な高校生だった。
父は大手証券会社のサラリーマンで、母は広告代理店のデザイナー。
エリートの家に生まれたひまりは、大事な一人娘として、蝶よ花よと育てられてきた。
両親の秀才ぶりはひまりにも受け継がれ、小学6年生のときに超名門、私立黎明学園中等部に見事合格。
エスカレーター式で黎明高校に入学し、順調に大学受験への道を駆け抜けていた。
しかし、1か月前に交通事故に巻き込まれ、頭部を強打。
幸い命に別状は無かったものの、「逆行性健忘」、つまり記憶喪失になってしまった。
5年間分の記憶は無くなってしまったものの、12歳までの記憶はしっかり残っているため、日常生活は普通に送れている。
しかし、問題は大学受験だった。
ひまりの両親は、彼女が勉強に着いていけなくなることを恐れ、黎明高校からここ、大山学院大学付属高校に転入させた。
この高校であればエスカレーター式で大学に進学できるため、万が一記憶が戻らなくても路頭に迷うことは無い。
記憶がいつ戻るのか、そしてどうしたら戻るのかは医者もわからないが、
ひとつ言えるのは、
「無理に記憶を戻させないこと」。
ストレスをかけることで、かえって症状が悪化する可能性があるからである。
かくして、エリート育ちだった佐藤ひまりは、
身体は17歳、心は12歳の生活を送ることになったのであった_______
「ちょっと男子!!!」
っ、!
突然の大声にひまりの体がびくっと反応する。
「それ、くさいんだけど!!」
後ろを振り返ると、チョコレートのような茶髪をくるっと巻いた女の子が腕を組んでいた。
名札には「吉田くらら」と書かれている。
元々美人なのも相まって、男子を睨むその顔はものすごい迫力だった。
そのくららの目線の先には、カップラーメンを食べている男子が。
匂いを指摘されたことが不服とばかりに、口をいっぱいにしながら怒鳴り返した。
「うっせー!お前らの香水の方が臭ぇよ!」
「(け、喧嘩してる……?)」
自己紹介をしたホームルームが終わり、席に座っていたひまり。
10分間の休み時間で、突如喧嘩が勃発していた。
小学生の喧嘩とは比べ物にならない迫力に、ぽかんとした表情を浮かべている。
「はぁ!?男子たちの汗の方が臭いわ!」
「そうだよ!体育の後はいっっつも充満してて本当にしんどいんだからね!」
「うわー、キーキー声うるさー!!」
「またヒステリー起こしてるー」
「そーやって何でもかんでもヒステリックって言えばいいと思って」
「思考力弱すぎー!」
最初は2人から始まったはずの喧嘩が、いつの間にかどんどん人を巻き込んでいき、気づいたときには男子vs女子の全面戦争が始まっていた。
「(えっ、ちょっ、ちょ……)」
信じられない状況に口をぱくぱくさせるひまり。
実はひまりは、新しく始まる高校生活を心から楽しみにしていた。
ドラマで見た高校生は、男女仲良く文化祭などの行事に取り組み、借り物競争でカップルが生まれ、ちょっと大人なこともしていた(キス)。
しかし今のこの状況は……
「(ぜんっぜん……アオハルじゃない……、、、)」
「だいたい、教室で何食べようが俺らの勝手だろ!」
「へー。この教室をお前ら男子だけの場所だと思ってるわけ?さすが脳筋は違うねー」
売り言葉に買い言葉。
喧嘩はどんどん激しくなっていく。
いつの間にか教室は男子サイドと女子サイドに分かれていて、ひまりだけぽつんとひとり、真ん中の席に座っていた。
「(ど、どうしよう……喧嘩を止めないと…っ)」
キョロキョロと首を振るひまり。
ふと、さっきの男の子と目が合った。
自己紹介のときに凝視してしまっていた男の子だ。
名札には「藤堂和樹(ふじどう かずき)」と書いてある。
「…」
彼も他の男子らと同様、女子たちを不服そうに眺めている。
加勢こそしないものの、喧嘩を止めてくれそうには見えなかった。
「(わ、私が何とかしなきゃ……。
こんな喧嘩してたら、みんなのせっかくのアオハルがもったいないよ…!)」
元々正義感が強かったひまり。
精神年齢が小学生に戻って、よりその傾向が強く出てしまっていた。
空気を読む力が劣るとともに……
「ま、窓を、開けちゃダメですかっ!!!!!」