12歳の女子高生

第2話

ひまりの大声に、シーーーン、とする教室。



「えっ、何??」
「うっるさ…」
「さっきの転校生だよ」
「なんで急に叫んだんだ?」
「ほらあの子、頭おかしくなっちゃってるから」


怪訝な表情を浮かべるクラスメイトたち。
1度勢いづいたひまりは止められない。
周りの空気も無視して、また喋りだした。


「た、確かにさっきから、カップラーメンの臭いは凄かったです!!はっきり言って臭かったです!!!」


「え??」

ラーメンを食べていた男、斎藤正(さいとう ただし)が間抜けな声を出す。


「で、でもだからと言って、こんなにワーワー怒ることないと思います!!臭いが気になった人が窓を開ければ良かったんじゃないですか?」


「は??」


くららが眉をひそめた。



「しょ、正直言うと、このクラスのみんな短気すぎます!!!もっと優しさを持ったらどうでしょうか!!
もっと、、、



もっと、大人になって!!!!!」


…と、精神年齢が1番幼いひまりは叫んだ。




「ふはっ、」


教室の空気が凍るなか、突然誰かが吹き出した。


「誰が誰に言ってんだよ」


藤堂和樹だった。






藤堂の話し出したことで、固まっていた男子が我に返ったように騒ぎ出す。


「あっははは、なんだあれ!!」
「あいつが1番子どもじゃんかよ」
「うわー今俺鳥肌立っちゃった!!」
「なんかのアニメの真似してんのかな」
「寒すぎーー……」


藤堂は高みの見物とばかりに頬杖をついて眺めていた。
その様子はまるで、男子を指揮する大将のようだった。


「っ、……、、」

続々と飛んでくる心無い声。
まさかそんなことを言われると思っていなかったひまり。
どうすればいいか分からなくて、言葉が喉に詰まった。


助けを求めて女子の方を見るが、彼女らもひまりを睨んでいて…

「チッ」

くららは眉をひそめて舌打ちをしていた。



「ねえねえひまちゃーん」

ラーメンを食べていた張本人、斎藤がひまりに近づいてくる。

急に馴れ馴れしくなった斎藤に、さすがのひまりも違和感を感じて後ずさる。

「な、なに…?」

「転校初日からそーんなこと言って大丈夫なの?」

「なんで……?」

「だってお前、残り2年間、友達ゼロで過ごすんだよ。小学生ちゃん」






「や、やめてよ………なんでそんなこと言うの…」

全身が熱い。

腹の奥底からふつふつと怒りがわいてくるようだった。


プチンっと糸が切れたひまりは斎藤の肩を強く押した。

「なんでそんな酷いこと言うの!先生に言うよ!」

「はははっ!んだよ、それ!本当に小学生みたいなキレ方だな!」

「また意地悪なこと言って!!!性格悪いっ!」

「おいおい悪口まで可愛いかよーー」

男の子たちがケラケラと笑い出す。

「ひどい!!
私だって記憶を無くしたくて、こうなってるんじゃないのに…!」

ぎゅっと拳を握ってうつむくひまり。



「ねぇ転校生」

さっきと違う声がして顔を上げる。

藤堂がひまりの目の前まで来ていた。


「転入早々悪いけど、もう前の学校戻った方がいいと思うよ」





「絶っ対戻らない!!!私はここでアオハルするんだ!!」


トンチンカンなひまりの発言に、また男子たちが笑い出す。

ひまりは負けじと、藤堂を睨み続けていた。


「はいはい」

藤堂は呆れたようにひまりをあしらう。

「女子が大好きな “アオハル” ね」



「ちょっと。こんなキチガイと一緒にしないで」


すかさず水を指すくらら。


「お前も充分キチガイだろ」

藤堂もくららちゃんを睨み返して言う。
ひまりに向ける目とはひと味違う眼差し。
その視線は敵意に満ちていた。


「っ、」

あまりの迫力にくららも黙り込む。
不服そうな表情はそのままだが。



「おーい、席につけーー!」

その時、先生が教室に入ってきて、空気が一気に変わる。
さっきまでの喧嘩が嘘のように、みんなざわざわと自分の席に戻りだす。

「はぁ、お前らまた喧嘩してたのか」

先生が慣れた様子で言う。

「このクラスは本当に男女仲が悪いなー!
普通は恋愛とかするんじゃないのか?お前たちの年はー」

1人でベラベラと話す先生。
もちろん誰も聞いていない。
ひまりはただ放心状態でぼーっと突っ立っていた。

「(男女仲が悪い……恋愛がない……アオハルも、ない……、、、)」

「ん?佐藤さん?どしたー?なんで立ってるの?」

気づいた先生が声をかけてくれるが……

「(なんで、どうして……私のアオハル……)」

ひまりはショックで動けなくなっていた。




******

「えー、いよいよ待ちに待った文化祭が2カ月後に迫ってます」

担任が話す声は右耳から左耳へ。
次の日になっても、ひまりはぼーっとしてしまっていた。



「(私が夢見てた高校生はこんなものだったの…?
男の子と女の子の仲は超超超悪くて、みんな意地悪で、先生も放ったらかしなの?

はぁ…早く記憶が戻ってほしいぃ…!

こんな生活、やっていける自信ないよ…!)」



「文化祭実行委員は、学級委員長の藤堂和樹と吉田くららで決定で…あと2人くらい入れようかな~~。毎年準備ギリギリになるし…」


「(“学級委員長”?)」

先生の言葉に引っかかるひまり。

「(藤堂くんとくららちゃんってこのクラスの委員長だったんだ…)」

昨日の喧嘩っぷりを見ても、あの2人がそれぞれの大将で間違いない。
ひまりは渋い顔をしながら1人で頷いていた。


「センセー!実行委員は佐藤ひまりさんが良いと思います!!」

「えっ!?」

突然名前を呼ばれ、思わず声が出る。

「おいおい……なんでお前が指名すんだよ、斎藤」

と、担任がいなす。
どうやら、文化祭の実行委員にひまりが推薦されたようだった。



「だって、そっちの方が早くクラスに馴染めると思ったので!」

もっともらしいことを言う斎藤。

「まぁ…それは確かにそうだな」

最初は怪訝な顔をしていた担任も、納得したように頷いた。

「準備していくなかで自然と会話の機会もできるだろうし」


「(た、確かに……)」

ひまりまで納得してしまっていた。
斎藤がクフクスと笑っているのにも気づかずに。


「(斎藤くんって…昨日はすごい意地悪だったけど、もしかして……本当は、良い子なのかな……)」


「僕たちも佐藤さんと仲よくしたいですーー!」

そう笑顔で言う斎藤。

「(そっか!私のことを思って行動してくれたんだ!!)」

昨日からモヤモヤしていた気持ちがすーっと消えていく。

「先生、私やります!」

ひまりは笑顔で手を挙げた。

「おっ、本当?結構しんどいけど…大丈夫?」
「はい!大丈夫です!せっかく斎藤くんが勧めてくれたので!」

ひまりがそう言った瞬間、男子たちがクスクスと笑い始めた。

「……」

藤堂は空回りするひまりを、呆れたように眺めていた。



「じゃあ、藤堂、吉田、佐藤は決定でー。あと一人はどうしようか。できれば、男子が良いんだけど」

先生が教室を見渡す。
すると、1人の男の子が手をあげた。

「ほい。俺やります。」

「お、山崎か。お前部活と両立できるのかー?」

「いけます。」

「じゃあ頼むぞー」

残りの1人は、立候補者が出てすんなり決まった。
すんなり決まりすぎて、ひまりは名前すら聞き逃してしまっていた。


「それじゃあ早速、4人は集まって会議頼むぞー。ある程度の方針決めてからクラス会議に持って来いよ。また揉めたらめんどくさいからな」

「(“また”…?やっぱりこのクラスはいつも喧嘩してるんだ…
こんな最悪な状態になるなんて、一体何があったんだろう…?)」

ひまりが転入する前に何か事件があったのは確かだ。
それも…クラスを分断するほど大きな事件が_____

「(だとしても……私はアオハルを諦めないっ!
男の子とはまだ無理かもしれないけど、せめて女の子とは仲良くなるぞ…!
エイエイオーーーーーっ!!!!!!)」

ひまりは密かに拳を握りしめた。
すべては憧れのアオハルのために…!
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