12歳の女子高生

第3話

「うぅ…ぜんぜん友達ができないいぃぃぃ~~~~~!!!」


あれから一週間。

全っ然友達はできていなかった。
放課後、教室で1人、頭を抱えるひまり。


「できることはすべてやったのに…なんで?!」

ひまりの頭のなかにここ1週間の記憶がよみがえる。



昼ご飯を一緒に誘ってみたり…

『一緒にご飯食べよう!ママにキャラ弁作ってもらったんだ!』



趣味の話をしてみたり…

『くららちゃんはどんなシール持ってるの?私はぷっくりシールも持ってるよ!』



プロフィール帳だってみんなに配った。

『好きな人の欄は秘密でもいいよ!ふふっ』



それなのに全っ然、友達ができていない。

男子はもちろん、女子ですら会話もしてくれない。

みんな嫌そうな顔や迷惑そうな顔をしていなくなっていく。


現に今も、文化祭のための会議をしようとずっと一人で待っている。
本来は他の3人も来るはずなのに。
この一週間毎日教室に残ってるが、誰も来たことがないのだ。



「はぁ……、、私、このまま一生友達できないのかなぁぁぁ…」

ひまりが机にうなだれていると…



「だから小学校に戻れって言っただろ」


「えっ!」

突然声がして振り返ると、

あきれ顔の藤堂がいた。





「あれからずっと教室で待ってたわけ」

藤堂がため息をついて教室に入ってくる。

しっかりネクタイは締めているけど、シャツの袖はまくっていて、そこからはひまりが見惚れていた腕が覗いていた。
見た目は爽やかな好青年なのだが、何しろこの険悪クラスの大将だ。
油断はできない。

「う、うん。文化祭の準備しなきゃだから」

今度は何をしに来たのかと警戒するひまり。

「…。」

藤堂はそれにすぐ気がつき、ため息をついた。

「俺、3年になったら指定校も出すつもりだから」

「えっ?」

突然、来年の受験の話が始まり首を傾げる。
察しが悪いひまりを見て、藤堂は「内申点。」とぶっきらぼうに言った。

「委員長の仕事をちゃんとしないと、選考で不利になるでしょ。
委員長として、文化祭の準備をするために来ただけ」

「へぇ…」
コクコクと頷くひまり。

「そっか!受験のこと考えてて偉いね!」

藤堂の言葉すぐに信じて、笑顔を見せた



「っ、」

一瞬、藤堂が驚いた表情を見せる。

「…どーも。」

転校初日にあんなことがあったのに、すぐに人を信用するひまり。
藤堂のなかに小さな罪悪感が芽生え始めていた。


「私ね、文化祭が超楽しみで色々考えてたんだっ!」

「ふーん……別にうちのクラスで頑張っても無駄なのに」

「えっ?」

「前の “アレ” 見てわかんない?」

ひまりの頭にカップラーメンの大喧嘩が思い出される。


「…どうして、あんなに仲悪くなっちゃったの?みんな同じクラスメイトなのに…」

「別に。」

藤堂がぶっきらぼうに窓の外を見る。

「女子は全員頭おかしいんだよ。」

「えっ?じゃ、じゃあ私も?」

「んーーまぁ」

藤堂くんはふっと笑って首を傾げた。

「クラス全員を敵に回してるからね」

「えぇ!?!」

「ある意味、他の女子よりも一番オカシイ。」

「な、なんで!?私いつのまにみんなの“敵”に…?」

「この前、クラス全員のこと“短気”って言ったでしょ。」

「えぇ…」

「後フツーに空気読めないし。シール帳とかプロフィール帳とか、誰も興味ない話題を押しつけてくるし」

「えっ、あれ誰も興味なかったの!?」

「多分、今はクラスで一番嫌われてるよ」

「そ、そんなぁ………」




「わ、私…どうしたらいいの…?」

ショックでうなだれるひまり。
藤堂は興味なさそうに「知らない」と吐き捨てた。

「俺には関係ないから」

「そ、そんなこと言わないで…
助けてくれないかな…?」

「自分で考えなよ」

「わ、私、他に頼れる人がいないの…
お願い!助けてください…!!」








「あー、そういうこと?」

突然、藤堂の顔が氷のように冷たくなった。

「え…っ、」

「さっきからやけに親切なのも、俺に助けてほしいからだったんだ?」
「え、いや…」

「これが女子の常套手段だよな。」

これまでもすっごく冷たかったのに、今の藤堂はまるで人を突き刺すような目をしていた。
まるで、くららを見ていたときのように。

「めんどくさいことは全部男子に押しつけとけばいいやって?
そう思ってるんだろ」

「え…っ?」

「そーやって、か弱いアピールするくせに、都合のいいときはレディファーストとか言うんだよな」

「な、なんのはなし…?
わ、私は別に“レディファースト”とか言ってな______」

「女子なんか全部一緒だろ。大変なことは何でもかんでも男に任せて、いいところだけ持っていくんだから」

「わ、私はそんなことしてないよ」

「じゃあ今の “助けて” は何なんだよ」

「それは、友達として!だよ!!」

「は?」

本当に意味が分からない、と眉を顰める藤堂。

「同じクラスの友達として!助けてほしいなって思ったんだよ!」

「いや、俺はお前を友達としてなんか見てな_____」

「私は思ってるよ!!」

「……え?」




「私は、藤堂くんのこと友達だと思ってるよ!」

「なんで俺の名前_____」

「藤堂くんもくららちゃんも斎藤くんも、みんな同じクラスの友達!だからこれも一生懸命作ったの!」

そう言って、ひまりはノートを机に投げ出した。

「……なにこれ」

これ以上にないくらい怪しんでいる藤堂。

「中見て!」

ひまりは自信満々にノートを差し出した。

「(この一週間、勉強の合間をぬっていっぱい調べたんだから!!)」

藤堂は渋々ノートを手に取ってページをめくっていく。
最初は怪訝そうな顔をしていたが、どんどん表情が驚きに変わっていく。

「こ、これ全部ひとりでやったの!?」

「うん!!!文化祭たっくさん楽しみたいから!」

ひまりが渡したノートには、一週間かけて調べ上げた文化祭の企画案が書かれていた。

文化祭の出し物を決めるために、色々なアイデアを出して、予算や、必要なもの、決めるべき役割など、とにかくなんっでも調べてまとめておいた物だ。


「凄…こんな細かく色々と…」

藤堂はあっけにとられた様子で、ノートをぺらぺらとめくっていた。

「ねっ!私も頑張ってやったから、藤堂くんも助けてほしいな!
レディファースト…とかじゃなくて、友達としてっ!!」

まだ驚いている表情の藤堂。

ひまりは勝手に藤堂くんの手を取ってぎゅっと握った。

「ちょっ、…はっ!?」

「握手!」

「え?」

「これからよろしくね!!一緒に文化祭頑張ろう!!」

そう言って無理やり手を振られる藤堂。

「…」
彼のなかでひまりへの誤解が溶けていく音がした。
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