12歳の女子高生

第4話

*******

「じゃあ、今から先生はちょっと会議出てくるから。その間に文化祭の出し物決めとけよー」

次の日。

先生が文化祭準備のために、時間をとってくれた。
文化祭実行委員を中心に会議をするらしいのだが…

あの後、藤堂はすぐにバイトがあると帰ってしまい、結局文化祭について何も話せていなかった。



「あーあ。文化祭とかだりー。」
「自習の時間にしてよ」
「このクラスでやったって絶対つまんないわ」
「失敗、失敗」


「(今日もみんなめんどくさそうにしてるな……
…よしっ、今こそ下調べの成果を見せる時!)」

ひまりは立ち上がって教壇に向かった。
片手にはあのノートをもって。

「み、みなさん!」

ひまりが大きな声で呼びかけると、教室がシーーーンとする。

「え、なに?」
「今“みなさん”って言った?」
「どゆこと?」
「え、やばい、ウケる」


「いきなりすみません…!あの、一応…実行委員として、出し物をいくつか考えて来ました…!…ので、みんなでどれにするか、決めませんか…?」

「(ううぅ、なんかカタコトになっちゃった…)」


恐る恐る教室を見回すが、誰一人としてひまりの味方をしてくれそうな人はいない。


藤堂でさえ…

「はぁ…」

ため息をついて呆れ顔だった。

「(そ、そっか…協力はしてくれないか……
で、でも諦めないぞ!
このためにたくさん考えてきたんだから!
せっかくの「アオハル」を楽しまなくちゃ!)」


「私が考えてきた案をいくつか黒板に書くので、多数決わお願いします…!」

「えーーー!!!ひまちゃんの案の中から決めるの~?
センスなさそうでやなんだけどーーー!」

大きな声で叫ぶ斎藤。

「あっ、ごめん!
もちろん、みんなからも案出してもらえれば、私が黒板に書くよ!」

「じゃあ、俺はメイド喫茶!!!」




め、メイド喫茶!?

「ちょっと!気持ち悪い提案しないでくれる!?」

女子が誰かが怒る。

「別に誰も女子がメイド服を着るなんて言ってませんけど~?」
「そーだよ!メイド服を着るのは俺ら!女子は掃除でもしてろ!」

「はぁ!?なんで私らがあんたらのきったないコスプレを見ないといけないのよ!」

「(あ~~~…またはじまっちゃった…!)」

「み、みんな喧嘩しないで…!」

ひまりはオロオロとするしかない。


「ひまちゃーん」

斎藤に呼ばれる。

「俺の“メイド喫茶”、黒板に書いてくれないの~?」

「あ、ごめん!いますぐ書くね!」

「(アイデアがどうであれ、とりあえず書いておいた方が良いよね…!)」


そう自分に言い聞かせて、背伸びをしながら黒板に書いていく。

メ、イ、ド…

ひまりが書いている間も、後ろではみんなが何か言い合っている。

もうてんやわんやだ…


「あれ?なんか文字の位置低くない?見にくいんだけどー」

「えっ?ごめん、書き直す!」

斎藤に言われ、慌てて文字を消す。

よいっしょ…!

さっきよりも高く背伸びをして、手を高く伸ばす。

「あー、そうそう、もうちょっと上~」

心なしか、斎藤の声が楽しそうに弾んでいる。

「(なんかちょっと…後ろのスカートの裾が上がってるような気が…)」

「ひまちゃーん、それじゃ後ろの奴が見えないよ~!もっと頑張って!!」

「う、うん!」

ひまりの心配通り、背伸びをすることでスカートの裾が次第に上がっていき、どんどん下着が見えそうになっていた。
斎藤はひまりで遊んでいたのだ。

「ほら、もっともっと!」

「うーん…!」

ぎゅっと目をつむって、思いっきり背伸びをした瞬間______

いきなり乱暴にチョークを奪い取られた。

「えっ?」

驚いて上を見ると、怒った表情の藤堂がいた。

「どいて。俺がやる。」




「ふ、藤堂くん…?」

藤堂はひまりをみんなから隠すように立っていて、
声色には怒りがこもっていた。

「おいおい、藤堂~。今いいとこだったじゃんかよ~」

斎藤が残念そうに声をかける。

「(“いいとこ”……?)」

状況がよく読めないひまりが首を傾げていると、
隣から怖い声が聞こえた。




「何が?」




藤堂が低くうなるように言う。

「えっ?」

斎藤が間の抜けた声を漏らす。

「い、いや、別に、あれだよ、その…なんていうか」

急にたどたどしくなる斎藤。
さっきまで言い合いしていた子たちも藤堂くんたちを見ていて、いつの間にか教室中が注目していた。

「お、おれはただちょっとふざけてただけで…何をそんなマジになってんだよ…あはは…」

「(斎藤くんが…藤堂くんにおびえてる…?)」

ひまりの違和感をよそに、藤堂は「あっそ」とだけ短く言って、ひまりのノートを手に取った。

「別に真剣に取り組んでもらわなくてもいーけど。
形だけでもちゃんとやろうとか無いの?」

そう話しながら、ひまりが全然届かなかった黒板に、スラスラと案を書いていく。

「みんな内申点気にしてるんでしょ。推薦で外部の大学に行く奴もいっぱいいるし。
文化祭放棄したクラスって書かれてもいーの?」

淡々と話す藤堂。
さっきまで大喧嘩してたのに、今はみんなシーンとして話を聞いている。

「(すごい…藤堂くんって…本当に信頼されてるんだ…)」





「こういうとこで変に騒ぐ奴らって、ほんと寒い。」


か、

か、

かっこいい……!

ひまりは目をキラキラさせて、藤堂を見つめていた。



「さ、さむ、さむ、さむ…??」

ショックを受けてるらしい斎藤が口をパクパクさせて固まる。

その様子を見てクスっと笑っている女子もいる。

「まあまあ!藤堂の言う通り、形だけでもちゃんとやろーぜ!」

そう言って手を叩いたのは、藤堂の親友、杉浦。
短髪のさわやかイケメンで、いつも藤堂と一緒にいる。

「斎藤もそんなオドオドしてないで、もっと案出せよ!な?」

にこやかに笑って斎藤の肩に手をかける杉浦。

「お、オドオドなんかしてないっての!」

「アッハハハ!してるしてる!」

2人がわちゃわちゃし出すと、次第に教室の空気も明るくなっていく。
そのころにはもう、藤堂は黒板に全部書き終わっていた。

「じゃあこの中から1つ選んで多数決とります」

「えっ!俺のメイド喫茶が入ってない!」

「お前のメイド服見たくないから無理」

藤堂、笑顔でバッサリ。

「えー、な、なんだよそれ~~」

斎藤は未だにオドオドしているが、他のクラスメイトたちはいつもの空気感に戻っていく。


「(藤堂くん、すごい…
本当に一瞬でこの場の空気を変えちゃった…

これが…本物の “人気者” ……っ、!!)」


思わず感心をしてしまうひまり。






この時はのんきに拍手なんかしていたが……


「チッ」

自分を睨みながら舌打ちをしている人がいるなんて、知る由もなかった______
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