12歳の女子高生
第5話
その後、藤堂の人望でクラスはなんとかまとまり、
文化祭の出し物は「時代劇カフェ」に決まった。
たくさん下調べした甲斐もあって、
ひまりの夢である「アオハル」まで大きな一歩を踏み出した。
嬉しくてたまらないひまりは、
放課後、1人であのノートを眺めていた。
「本当に、本当によかったぁぁぁぁぁぁ!」
「まーた1人で喋ってる」
「えっ??」
後ろを振り返ると、この前と同じように藤堂が教室の入り口でこちらを覗いていた。
「12歳のときの俺ってもうちょっと落ち着いてた気がするけど」
そう言って、隣の席に座る。
「ほんとは幼稚園児なんじゃないの?」
「ち、ちがうよ!!」
私が慌てて否定すると、クスクスと笑った藤堂。
「(へぇ…藤堂くんってこう笑うんだ…)」
男子同士で笑いあってるところは見かけるものの、自分に向かって笑ってくれたのはこれが初めてだった。
「で、まだ何か準備してるの?」
藤堂が机に置いてあるノートをチラッと見て言う。
「うん!今度はカフェのメニューを考えようと思って!」
「もうそこまでやるの?本当げんきいっぱいだねー。小学生は」
「うん!ありがとう!」
「ふはっ、今のは嫌味だよ」
あっ、また笑った!!
ひまりは驚きと嬉しさで目を点にした。
「(…あれ?
なんか私たち、“友達”って感じじゃない!?
アオハルって感じじゃない!?
うそ!嬉しい!すっごく嬉しい!!!)」
「ねぇ!今から一緒にカフェ巡りしない!?」
「は?」
「文化祭のメニュー決めるために色んなカフェ見に行こうよ!」
「行かない行かない。そんなの、テキトーにAIに聞けばわかるでしょ」
「AI…?なにそれ?ロボットのこと?」
ひまりが首を傾げると、藤堂は「あーそうか」とめんどくさそうに目を閉じた。
「5年前はそんなに流行ってなかったんだ」
「AIかなにかわかんないけど、
やっぱ食べ物はロボットじゃなくて人間が食べた方がいい!」
「いや、AIはロボットっていうより______」
「それじゃあ、カフェ巡りレッツゴーーーっ!!」
「聞いてないし」
「……って結局連れてこられた」
ため息をつく藤堂。
「ん~~~っ、あまいあまい!」
ひまりは1人でむしゃむしゃとシュークリームを頬張っていた。
高校の最寄り駅に来ていた2人。
持ち帰り専用のシュークリームを買い、歩きながら食べることにした。
「おいし~~っ!さすが新店舗だね!」
「いや、ここ出来たのだいぶ前」
「あれ?そうなの?」
そう首を傾げると、藤堂は「あー」と頭をかいた。
「開店がちょうど4年前とかだったかも」
「そっか…それじゃ記憶ないね…」
しょうがないとは分かっているが、
なんだかちょっと寂しい気持ちになる。
自分が覚えていない記憶の間に、一体どのような事があったのだろう。
楽しい記憶もたくさんあったのだろうか
「…なぁ、ずっと気になってたんだけど」
藤堂が聞きにくそうにそっぽを向く。
「その、記憶障害っていうの、なんでなっちゃったの?」
「……、、、」
迷ったような表情をして黙り込むひまり。
「(……ママたちにはあんまり話さない方が良いよって言われてるんだけどな…
みんな気を遣うだろうし、って)」
「いや、言えない話ならいい」
まだなにも言ってないのに、そう言って話を切り上げようとする藤堂。
「あっ、ううん!」
慌てて彼の腕を掴む。
ママたちはああいってたけど…
藤堂くんには話しても大丈夫な気がする…!
「藤堂くんになら…話してみたい!!!」
「…そんな信頼寄せられても困るけど」
なんだか気まずそうにひまりの手を外す。
けど、言うと決めたら言うんだ!
「私、友達とバイクに乗っててコケちゃったみたいなの」
「バイク?」
眉を顰める藤堂。
「誰が運転してたの?」
「その友達。私は後ろに座ってたらしい」
「ふーん…
それで?その子はどうなったの?」
「わかんない。私はその子が誰なのか、今何してるのか何もわかんないの。ママとパパが教えてくれないから」
「なんで?」
「脳にストレスがかかるからって」
「そう!!よくわかったね!凄い!」
思わず拍手すると、「凄いのはそっちでしょ」とまた呆れた表情をする。
「記憶は12歳で止まってるのに、高2の授業についていけてんだし」
「うん!この学校はそんなに頭良くないから!」
藤堂がふはっ、とまた吹き出す。
「そういうこと無自覚で言っちゃうから友達が_______」
ぴたっと言葉を止めた藤堂。
「…、、」
ひまりの表情があまりにも悲壮感に染まっていたからだ。
「(や、やっぱり、私って、みんなと仲良くなれないのかな…)」
落ち込んで下を向くと、
「…まぁ…他の奴らがいないとこでは、言ってもいいんじゃないの」
藤堂のぶっきらぼうな声が聞こえた。
「えっ?」
予想外の言葉に顔をあげる。
突然顔をあげたひまりに驚いて、ふっと目をそらす藤堂。
「確かに、鈍感で無神経だけど……だからって気を使われるのもお前っぽくないし。」
目は合わせてくれないけど…なんだかさっきの言葉には温かさを感じて…
さっきの言い方って、もしかして、もしかして…
「藤堂君の前では、好きに話していいってこと…?」
「………いいよ、
俺の前ではなんでも好きにしなよ。」
そう言って、藤堂は小さく笑った。
文化祭の出し物は「時代劇カフェ」に決まった。
たくさん下調べした甲斐もあって、
ひまりの夢である「アオハル」まで大きな一歩を踏み出した。
嬉しくてたまらないひまりは、
放課後、1人であのノートを眺めていた。
「本当に、本当によかったぁぁぁぁぁぁ!」
「まーた1人で喋ってる」
「えっ??」
後ろを振り返ると、この前と同じように藤堂が教室の入り口でこちらを覗いていた。
「12歳のときの俺ってもうちょっと落ち着いてた気がするけど」
そう言って、隣の席に座る。
「ほんとは幼稚園児なんじゃないの?」
「ち、ちがうよ!!」
私が慌てて否定すると、クスクスと笑った藤堂。
「(へぇ…藤堂くんってこう笑うんだ…)」
男子同士で笑いあってるところは見かけるものの、自分に向かって笑ってくれたのはこれが初めてだった。
「で、まだ何か準備してるの?」
藤堂が机に置いてあるノートをチラッと見て言う。
「うん!今度はカフェのメニューを考えようと思って!」
「もうそこまでやるの?本当げんきいっぱいだねー。小学生は」
「うん!ありがとう!」
「ふはっ、今のは嫌味だよ」
あっ、また笑った!!
ひまりは驚きと嬉しさで目を点にした。
「(…あれ?
なんか私たち、“友達”って感じじゃない!?
アオハルって感じじゃない!?
うそ!嬉しい!すっごく嬉しい!!!)」
「ねぇ!今から一緒にカフェ巡りしない!?」
「は?」
「文化祭のメニュー決めるために色んなカフェ見に行こうよ!」
「行かない行かない。そんなの、テキトーにAIに聞けばわかるでしょ」
「AI…?なにそれ?ロボットのこと?」
ひまりが首を傾げると、藤堂は「あーそうか」とめんどくさそうに目を閉じた。
「5年前はそんなに流行ってなかったんだ」
「AIかなにかわかんないけど、
やっぱ食べ物はロボットじゃなくて人間が食べた方がいい!」
「いや、AIはロボットっていうより______」
「それじゃあ、カフェ巡りレッツゴーーーっ!!」
「聞いてないし」
「……って結局連れてこられた」
ため息をつく藤堂。
「ん~~~っ、あまいあまい!」
ひまりは1人でむしゃむしゃとシュークリームを頬張っていた。
高校の最寄り駅に来ていた2人。
持ち帰り専用のシュークリームを買い、歩きながら食べることにした。
「おいし~~っ!さすが新店舗だね!」
「いや、ここ出来たのだいぶ前」
「あれ?そうなの?」
そう首を傾げると、藤堂は「あー」と頭をかいた。
「開店がちょうど4年前とかだったかも」
「そっか…それじゃ記憶ないね…」
しょうがないとは分かっているが、
なんだかちょっと寂しい気持ちになる。
自分が覚えていない記憶の間に、一体どのような事があったのだろう。
楽しい記憶もたくさんあったのだろうか
「…なぁ、ずっと気になってたんだけど」
藤堂が聞きにくそうにそっぽを向く。
「その、記憶障害っていうの、なんでなっちゃったの?」
「……、、、」
迷ったような表情をして黙り込むひまり。
「(……ママたちにはあんまり話さない方が良いよって言われてるんだけどな…
みんな気を遣うだろうし、って)」
「いや、言えない話ならいい」
まだなにも言ってないのに、そう言って話を切り上げようとする藤堂。
「あっ、ううん!」
慌てて彼の腕を掴む。
ママたちはああいってたけど…
藤堂くんには話しても大丈夫な気がする…!
「藤堂くんになら…話してみたい!!!」
「…そんな信頼寄せられても困るけど」
なんだか気まずそうにひまりの手を外す。
けど、言うと決めたら言うんだ!
「私、友達とバイクに乗っててコケちゃったみたいなの」
「バイク?」
眉を顰める藤堂。
「誰が運転してたの?」
「その友達。私は後ろに座ってたらしい」
「ふーん…
それで?その子はどうなったの?」
「わかんない。私はその子が誰なのか、今何してるのか何もわかんないの。ママとパパが教えてくれないから」
「なんで?」
「脳にストレスがかかるからって」
「そう!!よくわかったね!凄い!」
思わず拍手すると、「凄いのはそっちでしょ」とまた呆れた表情をする。
「記憶は12歳で止まってるのに、高2の授業についていけてんだし」
「うん!この学校はそんなに頭良くないから!」
藤堂がふはっ、とまた吹き出す。
「そういうこと無自覚で言っちゃうから友達が_______」
ぴたっと言葉を止めた藤堂。
「…、、」
ひまりの表情があまりにも悲壮感に染まっていたからだ。
「(や、やっぱり、私って、みんなと仲良くなれないのかな…)」
落ち込んで下を向くと、
「…まぁ…他の奴らがいないとこでは、言ってもいいんじゃないの」
藤堂のぶっきらぼうな声が聞こえた。
「えっ?」
予想外の言葉に顔をあげる。
突然顔をあげたひまりに驚いて、ふっと目をそらす藤堂。
「確かに、鈍感で無神経だけど……だからって気を使われるのもお前っぽくないし。」
目は合わせてくれないけど…なんだかさっきの言葉には温かさを感じて…
さっきの言い方って、もしかして、もしかして…
「藤堂君の前では、好きに話していいってこと…?」
「………いいよ、
俺の前ではなんでも好きにしなよ。」
そう言って、藤堂は小さく笑った。