高貴な財閥夫婦の秘密
二人は、何も話さず……

すぐに従業員が「では那留さん、先に入場しましょう!」と声をかけられる。

那留は梨良に意味深に頷き、先に控室を出た。

そして梨良の父親が入ってくる。

「梨良、綺麗だよ!」

「ん。ありがとう」

「………」

「………」

「………何?」

「ちょっと、意外だった―――――」

「え?」  

「那留との結婚」

「え?」

「思ったより、すんなり那留との結婚を受け入れたから。
梨良、他に好きな男がいると思ってたからな」

「…………確かに、那留くんとお付き合いしてたわけじゃないけど……
那留くんのこと、好きだよ。
この一年半で、ちゃんと覚悟決めたから」

これは、本心だ。
だが……“那留よりも、愛する人がいるというだけ”

「そうか…?
………じゃあ…これは?」
そう言って、父親が梨良の目元をなぞった。
そして「涙」と呟く。

「マリッジブルー……
不安で……
いつも、パパに支えてもらってたから、私…何も出来ないし…」

「………」

「ん?パパ?」
意味深に見つめる父親に、梨良は首を傾げる。

「………覚悟…ね…
いや…大丈夫だよ。“梨良なら出来る……!”」
父親は意味深に言い、笑うのだった。


そして従業員に呼ばれ、梨良と父親が控室を出た。

そして父親とともに、バージンロードを歩く。

梨良は参列者席に座っている知嗣を、無意識に見ていた。

ここから、苦しい秘密の生活が始まる…………!

そして………祭壇前で待っている那留に近づくと、梨良は意を決して夫となる那留に視線を移した。


誓いの言葉を述べる。
それまでは、まだ良かった。

しかし………

「―――――……では、誓いの口づけを……!」

那留が、ベールを上げる。
両腕に軽く手を添えて、顔が近づくと………

瞑っていた梨良の目から、一筋の涙がこぼれた。

那留が……一瞬動きを止める。

でもここで立ち止まるわけにはいかない。

軽くキスを交わした………


それからは、なんとかこなしていく。
お色直しになり、梨良が会場を出ていった。

控室に入ると、梨良はその場に崩れ落ちた。

「梨良さん!?
大丈夫ですか!?
ご気分が悪いんじゃ…」

「あ…大丈夫です…」

「那留さんを呼びましょうね?」

「あ…いえ…大丈……」

従業員が気を遣い、那留を呼び出した。
「―――――梨良!?」

「あ…ごめんなさい…」 

「いや…」
那留が、ゆっくり背中をさする。

そして少しの間会場を繋いでもらうように話し、梨良と二人にしてもらった。


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