前略、駅前のカフェで待ってます。
第1章
第1話
冷たい木枯らしが街路樹を揺らし、枝から落ちたイチョウの葉がアスファルトの上を踊るように滑る。
美咲(みさき)は、駅前のカフェの窓に面したカウンター席に座り、コーヒーカップを両手で包むように持ち上げて口元に運んだ。窓越しに行き交う人々を眺めながら、ついその中に翔太(しょうた)の姿を探してしまう。
「もう3年も経つのに、ダメだよなぁ、私。
そもそも翔太がこの街にいるわけないのにね…」
美咲の自宅の最寄り駅前にあるカフェ。
翔太との待ち合わせは、いつもこのカフェだった。今でも週末に時間が取れると度々足を運んでは、楽しかった頃の想い出にふける。
でも、今日は違う。
美咲は、ある決意を胸にカフェを訪れていた。
美咲と翔太がこのカフェで最後に会ったのは、社会人になって2年目のこの季節。
冷たい木枯らしが吹き始めた頃だった。
「え?シンガポールに転勤?」
その日、美咲は翔太に「大事な話がある」と呼び出された。
「うん。来月には日本を発つよ」
「来月?随分と急な話だね」
「年内には来て欲しいって言われててさ…」
「そうなんだ…」
美咲は、コーヒーカップを静かにテーブルの上に置く。
期待していた「大事な話」と違っていたことに、美咲は少しガッカリしていた。
美咲と翔太は、大学3年生のとき、都市建築工学のゼミで出会った。
同じ研究グループのメンバーとなり、顔を合わせることも増え、互いの意見を交わしていく中で意気投合。4年生になる頃には、自然と交際が始まった。
「オレたち、価値観が似てるみたいだな」
「そうね。私もそう思う」
そう言ってふたりは笑顔で見つめ合った。
美咲(みさき)は、駅前のカフェの窓に面したカウンター席に座り、コーヒーカップを両手で包むように持ち上げて口元に運んだ。窓越しに行き交う人々を眺めながら、ついその中に翔太(しょうた)の姿を探してしまう。
「もう3年も経つのに、ダメだよなぁ、私。
そもそも翔太がこの街にいるわけないのにね…」
美咲の自宅の最寄り駅前にあるカフェ。
翔太との待ち合わせは、いつもこのカフェだった。今でも週末に時間が取れると度々足を運んでは、楽しかった頃の想い出にふける。
でも、今日は違う。
美咲は、ある決意を胸にカフェを訪れていた。
美咲と翔太がこのカフェで最後に会ったのは、社会人になって2年目のこの季節。
冷たい木枯らしが吹き始めた頃だった。
「え?シンガポールに転勤?」
その日、美咲は翔太に「大事な話がある」と呼び出された。
「うん。来月には日本を発つよ」
「来月?随分と急な話だね」
「年内には来て欲しいって言われててさ…」
「そうなんだ…」
美咲は、コーヒーカップを静かにテーブルの上に置く。
期待していた「大事な話」と違っていたことに、美咲は少しガッカリしていた。
美咲と翔太は、大学3年生のとき、都市建築工学のゼミで出会った。
同じ研究グループのメンバーとなり、顔を合わせることも増え、互いの意見を交わしていく中で意気投合。4年生になる頃には、自然と交際が始まった。
「オレたち、価値観が似てるみたいだな」
「そうね。私もそう思う」
そう言ってふたりは笑顔で見つめ合った。
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